恩田 陸 Onda Riku
1964年宮城県生まれ。
92年『六番目の小夜子』でデビュー。
2005年「夜のピクニック」で吉川英治新人賞と本屋大賞、06年「ユージニア」で日本推理作家協会賞、07年「中庭の出来事」で山本周五郎賞、17年「蜜蜂と遠雷」で直木三十五賞と本屋大賞を受賞。
著書多数。
芳ケ江国際ピアノコンクールは、三年ごとの開催で今回で六回目を迎える。
世界でピアノコンクールは多くあるが、芳ケ江は近年評価が高い。
というのも、ここで優勝した者は、その後著名コンクールでも優勝するというパターンが続き、その才能を高く評価することがあったからだ。
ジン・カザマ(風間塵)は、十六歳。
学歴・コンクール歴なしで、日本の小学校を出て渡仏した。
ただ、現在パリ国立高等音楽院特別聴講生という記述があり、ユウジ・フォン・ホフマンに5歳から師事とあった。
また、〈弟子を取らないことで有名だったホフマン先生の弟子〉とあり、推薦状が添えられていた。
父親は養蜂家で、ジンと共に、各地を転々とする生活をしているという。
映伝亜夜は、内外のジュニアコンクールを制覇し、CDデビューも果たした天才少女だった。
彼女のキャリアが断たれたのは13歳のときで、彼女の指導者であり、彼女を護り、励まし、身の回りのことをすべてやってくれていた母親が急死したからだった。
母を愛し、母を喜ばせたいと母のためにピアノを弾いていた亜夜にとって、その母が突然消えてしまったことの喪失感はあまりに大きかった。
地方のコンサートホールで、ステージ上のグランドピアノを見ながら、音楽はそこにはないと感じた亜夜は、ステージを降りた。
彼女は「消えた天才少女」だった。
高石明石は、28歳。
コンクールに出場するメンバーの中で最高年齢といってもいい。
出場者は、裕福な家庭のおぼっちゃんやお嬢様ばかりである。
明石の家は、平均的なサラリーマン家庭だし、妻は高校の物理の先生、明石自身は大きな楽器店の店員だった。
家族持ちで、コンクールの出場を決めてからも、練習するための時間や場所をを捻りだすのに苦労した。
妻の満智子も応援してくれている。
マサル・カルロス・レヴィ・アナトールは、このコンクールの優勝者と期待されている19歳の青年だ。
アメリカのジュリアード音楽院で、ナサニエル先生に師事している。
母のミチコは、日系三世のペルー人で、フランスの留学してフランス人の物理学者と結婚し、マサルが生まれた。
小さい頃、両親の仕事の都合でマサルは日本に暮らしたことがあった。
母は、自分のルーツである日本に暮らすことに期待したが、それは見事に打ち砕かれた。
息子のランドセルには残飯が詰め込まれて異臭を放ち、息子は胃の中のものを全部吐いた。
そして、再びフランスに戻るまでの十カ月、マサルはインターナショナルスクールに転校する。
偶然にコンサート会場で出会ったマサルと亜夜は、小さい頃に共にピアノを弾き、『マーちゃん』『あっちゃん』と呼び合っっていた幼馴染であった。
様々な思いを秘め、コンクールは始まる。
一次予選、二次予選、三次予選、そして本選へと、天才たちによる競争の火蓋は切られることになる。
音楽を扱う小説は、難しいのだそうだ。
書き手にもそれなりの教養が必要であるだけでなく、それを読む者に物語へと引き込む文章力が必要になる。
直木賞と本屋大賞のダブル受賞している本書は、手ごたえのある読み物となっている。
ハラハラ。ドキドキのコンクールだ。
(J)