須藤 靖 Suto Yasushi
1958年高知県生まれ。
東京大学大学院理学系研究科物理学科専攻教授。
東京大学理学部物理学科卒業、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了(理学博士)。
専攻は宇宙物理学、特に宇宙論と太陽系外惑星の理論的および観測的研究。
著書に『人生一般ニ相対論』『ものの大きさ』『不自由な宇宙』等がある。

突然ですが、みなさんがコンピュータシミュレーションで創られた仮想世界の中に閉じ込められてしまったと想像してください。
その仮想世界の中のすべての出来事は、コンピュータ言語で記述された一連の規則に従った振る舞いをします。
あなたはそれらをじっくりと観察し、必要に応じて自ら様々な現象を試したり実験したりすることも可能です。
その経験を通じて、世界は何らの規則あるいは法則に支配されていることに気づき、さらにはその法則に対応する具体的、数学的な方程式を突き止めてしまうかもしれません。
おわかりのようにこれは我々が生きている現実の世界における科学という営みそのものです。
地上で行われる様々な実験に加えて、宇宙を舞台にした広大なスケールでの天文現象を観測することで、この世界のふるまいを理解し尽くすのが天文学と宇宙物理学の最終的なゴールだと言えるでしょう。

本文 まえがき より

宇宙は、今から137・87±0.20億年前に誕生したと言われている。
それより過去に宇宙は存在しなかったと言われている。
では、宇宙が生まれる前はどうなっていたのか?
そのことの答えは「宇宙が生まれる前に宇宙はなかった」と答える以外にはない。
自分が生まれる前に自分がいたかという問いと同じだという。

アインシュタインが一般相対論に関する一連の論文を発表したのは、1914年から1916年であった。
その理論によると、ブラックホール(天体)や重力波の存在が生まれることになる。
ブラックホールを最初に導いたのは、ドイツのシュバルツシルトであるが、アインシュタインの数式からだったようだ。
だが、アインシュタイン自身もブラックホールは、数学的な解にしか過ぎないと思っていたという。
その後、重力波の検出が連星パルサーの観測により可能となり、ブラックホールの存在が明らかになる。

宇宙は、とてつもなく大きい。
私たちは、未だに、宇宙の果てからくる光りを見ることすらできないから、当然ながら、宇宙の果てを見ることもできない。
だが、数学の解としか思われていなかった数式が、天文学や宇宙物理学の進歩に伴い、宇宙の定理として「発見」されている。
抽象的な解だと思われていた数学が、実は宇宙物理学で解明されるに従って、宇宙の法則として認められている。
神の仕組んだものなのか、数々の宇宙の法則の謎は、今も弛まぬ努力で解明されている。
壮大で、思わず夢見がちになってしまう楽しくも難しくもある本だった。

(J)

 

「宇宙は数式でできている」 なぜ世界は物理法則に支配されているのか