ニール・スティーブンスン
1959年、アメリカ・メリーランド州フォートミード生まれ。
ボストン大学にて地理学と物理学の学士号を取得し卒業。
1984年に長編 The  big Uでデビュー。
1995年刊行の『ダイアモンド・エイジ』でヒューゴ賞、ローカス賞を受賞。
続く1999年刊行の『クリプトノミコン』でローカス賞を受賞。
その後も長文なSF作品を発表し続けている。
近年は技術関連のノンフィクション記事も多く手がけ、またAmazon.comの創業者ジェフ・べゾスが設立した航空宇宙企業ブルーオリジン社のアドバイザーも務めた。

日暮 雅通 (ひぐらし・まさみち)
1954年,青山学院大学理工学部卒。
英米文芸・ノンフィクション翻訳家。
訳書『七人のイヴ』スティーブンスン、『都市と都市』『爆発の三つの欠片』ミエゲイル、『最初の刑事』サマースケイル、『シャーロック・ホームズの思考術』コニコヴァ他多数。

アメリカは、政府が無力化し資本家によるフランチャイズ国家が国を分画・統治する世界である。
また、仮想世界「メタヴァース」が築かれている世界でもあった。
ヒロ(ヒロアキ)・プロタゴニストは、ピザの配達人であり、フリーランスのハッカー、そして剣士でもある。
マフィアの経営するピザの高速配達人は、一種の特権階級である。
ユニフォームは活性炭のように真っ黒で、外部からの真の光だけを濾過するアラクノファイバー織だった。
〈配達人〉には銃が与えられる。車や積み荷を狙う連中がいるからだ。
車のバッテリーには、半キロのベーコンをを小惑星帯まで飛ばせるくらいのポテンシャルエネルギーが詰まっている。

コーザノストラ・ピザ・ナンバー3569のヒロは、20分経過したピザを20キロ離れた所へと車で走る。
ルートに気を取られた〈配達人〉は、スケートボードにプーンされた。
スケートバーダーは、ボートに引っ張られて水上スキーをする要領でサーフィンしている。
オレンジとブルーのつなぎ服を着た〈特急便利屋〉だ。
配達までの時間が迫る中、横道に入ったヒロだったが…。
それがヒロとY.T.の出会いだった。
配達に失敗したヒロに変わって、Y.T.はピザを届けたのだった。

そんなある日。ヒロはメタヴァースで、「スノウ・クラッシュ」という謎のドラッグを手渡される。
この「スノウ・クラッシュ」を使用したアヴァターは制御不能となり、現実世界の実体まで意識不明に陥るということが起きる。
Y.T.とともに、この怪事件の謎に迫るヒロは、現実とメタヴァースを行き来しながら、古代シェメール文明を遡ることになる。
バベルの塔は実在したのか。
理解することのできない言葉を話す人々、自意識のない集団、謎は深まる。

「メタヴァース」という言葉を生んだとされるSF小説「スノウ・クラッシュ」は、未来を描く物語でありながら、過去と現在とも結ぶ。
時代設定はかなり特殊な感じを与えるが、読み始めると独特の面白さが漂う。
ハッカーの脳を通じて社会を破壊させる「ウィルス」は、ハッカーでない人々にとっても、決して他人事でない。
情報に溢れ、メディアを通じて誰とでも気軽に出会うのある現代社会ではある。
にも拘らず、果たして今はオープンな社会か、はたまたクローズドな社会か。
ふとそう思うことがある。

(J)

 

 

「スノウ・クラッシュ」Snow Crash