幸田 正典(こうだ・まさのり)
1957年生まれ。
1985年京都大学大学院理学研究科博士課程単位取得退学。
理学博士。
専攻は行動生態学、動物生態学、動物社会学、比較認知科学。
アフリカのタンガニイカ湖の魚や珊瑚礁魚などを主な対象に、行動、生態、社会、認知を研究する。
大阪市立大学大学院理学研究所教授。
共著に『魚類の繁殖行動』『タンガニイカ湖の魚たち』『魚類の社会行動2』『魚類生態学の基礎』『隠す心理を科学する』などがある。
ホンソメワケベラ(ホンソメ)という小さな熱帯魚が、〈鏡に映った自分の姿を自分だとわかる〉ということが、研究でわかった。
魚が自己認知や、自己意識や自意識を持つという、今までは考えられなかったことが実験で確かめらている。
鏡に映る像が自分だと理解する能力は、ヒトを含む類人猿、イルカ、ゾウ、カササギでしか確認されていなかった。
この魚類の鏡像実験は、脊椎動物の中でももっとも「アホ」だと思われてきた魚の実態の認識を大きく変化させる可能性を秘めている。
魚からヒトに至るまでの脊椎動物の脳は、単純な魚の脳に少しずつ新しい脳が加わって哺乳類の複雑な脳が出来上がったというマクリーン仮説な正しいとされていた。
今世紀に入ったころから、動物の脳の研究が大きく転換し、魚類の段階ですでに大脳・間脳・中脳・小脳・橋・延髄の6つの脳の構造が完成していることがわかってきた。
つまり、人と魚の脳は同じ構造していて、今までの脳仮説がくつがえされたのである。
そして、それを証明するかのように今回のホンソメの自己鏡像認識が明らかになった。
さらに、魚の自意識、社会性や互恵性(お互い様の精神)、思考力もあることがわかってきている。
その証明のために、さらに現在も魚の賢さに関する研究は繰り返されている。
脳の研究は、いつの日か「心とは何か」という果てしない難問に答えを見出す、そんな日が来るのかも知れない。
(J)