柚木 麻子
Yuzuki Asako
1981(昭和56)年、東京都生れ。
2008(平成20)年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、’10年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。
’15年『ナイルバーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。
他の作品に『私にふさわしいホテル』『ランチのアッコちゃん』『伊藤くんA to E』『本屋のダイアナ』『BUTTER』『マジカルグランマ』などがある。

町田里佳は、大手出版社「週刊秀明」の記者だ。
親友の怜子は、大学以来の親友であり、今は専業主婦をしている。
怜子の夫の亮介さんは、中堅菓子メーカーの営業マンである。

里佳は、現在裁判中の梶井真奈子を記事にしようと東京拘置所にいる彼女のと面会を望んでいる。
梶井は、数名の男性の財産を奪い、殺害した容疑がかかっている。
世間がこの事件に興味を示したのは、梶井真奈子が若くも美しくもなかったからであった。
彼女は、どちらかと言えば、ぽっちゃりとした体形であり、自分好みの美味しい料理が好きだった。
男たちは、その手料理を振舞われ心を奪われ、梶井と結婚を望み、そして事件へと発展していく。

料理上手な怜子のアドバイスに従い、『…ビーフシチューのレシピがとても気になっています。一度、教えていただけませんか』と文末に書き添えたことがきっかけになり、梶井は里佳との面会を承諾した。
記事を書くためには、梶井の心を開ける必要がある。
そのために、里佳は必死にレシピを書きとめ、さまざまな料理を自分で試す。
バターたっぷりの食事は、たちまちスレンダーだった里佳の体系を変えていく。
どうにかして梶井の心の中の世界を理解しようと必死になる里佳。
そんな里佳は、怜子の目には、どんどんと梶井に料理の世界やモノの見方を取り込み、のめり込んでいくように見えた。
それは、殺された男たちと同じように取り込まれていくことではないかとも思われた。
そして、怜子は、そんな里佳が自分の知らない遠い人になって、去っていくかのような不安を覚えていくようになる。

おいしい食事や濃厚なバターを食べて変化していく体と心。
生きていく上で、食べることは大切でありながら、のめり込むと妖しい世界になるのかもしれない。
「BUTTER」に象徴される女性の生き方や世界観を巧みに描く作品でもあり、同時にスリリングでもある。
また、一人の人としてどう生きるか、見つめ直し考えさせられる作品でもあった。

(J)

 

「BUTTER」バター