北大路 公子 (きたおおじ きみこ)
北海道生まれ。
大学卒業後、フリーライターに。
新聞の書評欄や文芸誌などに寄稿。
著書に、『生きていてもいいかしら日記』『頭の中身が漏れ出る日々』『ぐうたら旅日記』『枕もとに靴』『最後のおでん』『石の裏にも三年』『晴れても雪でも』『苦手図鑑』『流されるにもホドがある』などがある。

小説とエッセイとでは、脳みその使う部分が違うように思っていたのだけど、北大路さんの中では地続きにつながっているのかもしれない。
滑らかに両者の間を行き来する作品群は、あっぱれとしかいいようがない。
どこがどうおもしろいか、このひとのセンスがどうすごくて文章がどう素晴らしいか、言葉を持たない。
言葉を持たないのだから解説のしようがない。
読んでもらうしかない、と思う。
(宮下奈都氏「解説」より 抜粋)

とにかく面白い。
笑いの質が半端でない。
ゲラゲラ笑い、ウフフ笑い、爆笑、ニタニタ笑いなど、いろいろな笑いが自分から漏れ出てくる。

例えば、
久しぶりに見届けたいと思ったカップルは、気温36度の東京での出来事だった。
気温36度といえば体温とほぼ同じ。
道産子の筆者にとって、気温36度は「われわれは湯煎されている」状態なんだそう。
誰かが大きなビニール袋で東京を包み込んで、湯煎する。
湯煎の湯が少し緩くなったら、また熱いお湯を注ぐ。
そんな街・東京である。
その湯煎状態の中で、東京で出会ったとあるカップルは、しっかりと手をつないで離さない。
女の子の手にはハンカチ、男の子も時々汗を拭うけど、手は離さない。
そのカップルがいつ手を放すか、それを見届けたい。
と筆者は願った。

というような内容の文章が、面白おかしく、つらつら、ぞろぞろと出てくる。
とにかく笑って満喫した感じである。
発想も抜群、文章もうまい。
編集者との駆け引き?も、ストレスフルな日常も、笑いながら見事に表現している、そんな心地よい作品であった。

(J)

「私のことはほっといてください」