瀬尾 まいこ (せお・まいこ)
1974年大阪府生まれ。大谷女子大学国文科卒業。
2001年に「卵の緒」で坊ちゃん文学賞大賞を受賞し、デビュー。
05年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞を、09年『戸村飯店、青春100連発』で坪田譲二文学賞を、19年『そして、バトンは渡された』で本屋大賞を受賞。
他の著書に『天国はまだ遠く』『やさしい音楽』『強運の持ち主』『温室デイズ』『見えない誰かと』『ありがとう、さようなら』『僕の明日を照らして』『おしまいのデート』『僕らのごはんは明日で待ってる』『あと少し、もう少し』『春、戻る』『傑作はまだ』などがある。
優子は、3人の父親と2人の母親がいる。
そんな家族の形態は、17年間で7回も変わった。
優子を生んだ母親は、三歳のなる前に交通事故で死んだ。
父親の水戸は、優子が小学校2年生のとき梨花さんと結婚した。
梨花さんは、お父さんより7歳年下で、綺麗でおしゃれだ。
小学校3年生の時、父はブラジルへ転勤になり、梨花さんと水戸さんは離婚したが、優子は友だちと別れたくないこともあって、梨花さんと共に日本に残った。
ブラジルへは、毎日手紙を書いたが、父からは一度も返事はなかった。
その後、梨花さんは17歳年の離れた泉ヶ原さんと結婚する。
泉ヶ原さんは、大きな家に住んでいて吉見さんというお手伝いさんがいた。
あまりに前の暮らしと違い過ぎて、ただ戸惑っているままの毎日だった。
誰かが厳しいことを言うわけでもないのになぜか堅苦しい。
当時、ピアノが弾きたいという優子の願いは、泉ヶ原さんの家にあるグランドピアノが叶えることになった。
週二回ピアノの先生が自宅に来て、優子も練習に励んだ。
泉ヶ原さんは、梨花さんが言うようにいい人だった。
父親であるその人は穏やかで優しい。
優子がおじさんと呼ぶのも、何も言わず受けとめてくれた。
数か月すると、梨花さんは堅苦しい・窮屈だと家を出て行った。
が、毎日にように夕方になると優子のもとに現われた。
そして高校3年生になった今、優子は森宮さんと暮らしている。
梨花さんは、中学の同級生だった森宮さんと数年前に再婚していた。
が、その後家を出て別の人と再婚した。
そしてそれ以来、優子の前には姿を現さなくなった。
東大卒で、一流企業に勤める森宮さんだったが、どこか風がわりな人だ。
でも優子のことはよく考えてくれている。
電子ピアノも買ってくれた。
『困った。全然不幸ではないのだ。少しでも厄介なことや困難を抱えていればいいのだけど、適当なものは見当たらない。いつものことながら、この状況に申し訳なくなってしまう。(本文抜粋)』
こんな書き出しで始まるこの本は、優子が、今共に暮らす森宮さん宅から結婚へと向かうまでの心模様も含めて描かれている物語である。
《父親は3人で母親が2人》と聞けば、どんなに苦労しているだろうとか、大変だろうと想像してしまうが、優子はそんなまわりの思惑とは別の人生を送っている。
人生の幸不幸ってなんだろう、その単純とも複雑ともいえる疑問への答えの1つがこの本の中にある。
読後、暖かい優しい気分になり、またその気分にじっくりと浸った本だった。
(J)