アラン・S・ミラー(Alan S.Miller)
2003年1月、多くの人々に惜しまれつつ、44歳の若さで亡くなるまで、北海道大学大学院文学研究科(行動システム科学講座)の教授を務めた。ワシントン大学社会学部の盟員准教授でもあった。カリフォルニア大学ロサンジェルス校を卒業後、ワシントン大学で博士号を取得。ノースカロライナ大学シャーロット校、フロリダ州立大学で教鞭に立った。最後の勤務先となった旧帝大系の名門大学北海道大学では、外国人として初めて終身教授の地位を与えられた。北大の行動システム科学講座は、日本の進化心理学研究のメッカに数えられる。
犯罪、反社会行動、宗教、比較文化、社会心理などのテーマで、権威ある学術誌に25を超える論文を発表。カナザワとの共著に、現代日本の社会秩序の特質とその起源を探った著書『Order By Accident:The Origins And Consequences Of Group Conformity Japan』がある。

サトシ・カナザワ(Satoshi Kanazawa)
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカルサイエンス経営学准教授。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンおよびロンドン大学バークベック・カレッジ心理学部名誉研究フェロー。ワシントン大学で修士号、アリゾナ大学で博士号を取得(いずれも社会学)。社会学に進化心理学の視点を持ち込んだ初の社会学者となる。社会学のすべての主要分野(社会学、心理学、政治学、経済学、人類学)、および生物学の権威ある学術誌で、進化心理学の論文を発表。70を超える論文・文献の一部の章を執筆している。現在、学術誌『Evolutionary Psychology』『Journal of Social Evolutionary, and Cultural Psychology』および『Managerial and Decision Economics』の編集委員を務めている。
世界各国のメディアに広く研究を紹介されていて、テレビやラジオにも多数出席している。

スポーツで好成績を上げるのも、マネーゲームで稼ぐのも、選挙に出るのも、研究室にとじこもってノーベル賞をめざすのも、男たちのすることはほぼすべて、突き詰めていけばその根源には「女の気を引くため」という動機がある。
男たちはもてたい一心で頑張る。女に「イエス」と言ってもらうために身を削って奮闘する。
人間の男たちの涙ぐましい努力は、ニワシドリの雄が雌の気を引くためにせっせと小石や枝を集めて芸術的なまでに手の込んだ巣をつくるのと、本質的には変わらない。
そんな男のさが、女のさがに生物進化の視点で迫るのが、進化心理学だ。
本文 訳者あとがきより 抜粋

戦地から帰還した男性の子どもは男児である確率が高い。
なぜか?
それに戦闘を生き延びて帰国し、妻と再会して子をなした兵士は、戦死して子孫を残せなかった兵士よりも平均して約2.25センチ背が高かった。
なぜか?
たかだか2.25センチと思うかもしれないが、統計的には有意な差がある。
背の高い親からは背の高い男児が生まれる確率が高い。
身長が2.5センチ高ければ、男の子が生まれる確率は5%高くなるらしい。

なんとなくわかっているような「人間の本性」とは、一体何だろう。
複雑でもあり、単純でもある「人間の本性」は、進化によって形成された独自の性質をもち、ヒトという動物として行動している。
そのヒトの独自性を人間の本性としてとらえ、二つの意味を与える。
1つは私たちの考え、感情、行動は、生まれてからの経験や環境だけではなく、気の遠くなるような長い年月の間に、先祖が遭遇した出来事によって形作られているという。
私たちは、過去の体験の集積であり、それが考えや感情や行動に影響を与える。
もう一つは、人間の本性は普遍的なものであり、すべての男や女に共通するというものである。
体験や環境が大きな影響を及ぼすことは誰もが認める。
少なくとも、生物学的・遺伝的要因のみで人間の行動が決定されると主張する科学者はいないだろう。
しかし、社会学者やジャーナリストやその他の人々の中で、環境が100%人を形作ると信じる人々がいる。
進化心理学は、人間の趣味や価値観、感情、認知、行動に対する生物学的、進化的影響を理解しようとしている。

興味深いテーマが、続々と書かれている本である。
なぜ、男は、ウエストの細い女性を好むのか。
なぜ人は、浮気をするのか。
男性と女性に生まれつきの差はどんなものか。
配偶者は、どんな観点で選ぶ傾向があるのか。
日常生活でよくする事柄や社会現象、社会問題に焦点を当てて、進化心理学的に答えを模索する本である。

(J)

「進化心理学から考えるホモサピエンス」