斎藤 幸平 (さいとう こうへい)
1987年生まれ。
大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。
ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。
博士(哲学)。
専門は経済思想、社会思想。
Karl Marx’s Ecosocialism:Capital,Nature,and the Unfinished Critique of Political Economy(邦訳『大洪水の前に』によって、権威ある「ドイッチャー記念賞」を歴代最年少で受賞。
同書は世界5か国で刊行。
編著に『未来への大分岐』など。

今、気候変動、コロナ禍、文明崩壊の危機など、多くの問題がある。
その危機は、人類の経済活動が地球を破壊しているものだ。
そして、気候変動がさらに進めば、この社会はさらに混乱し、野蛮な状態になると警告する。
それを阻止するためにはどうすればいいのだろうか。
危機の解決策は、晩期のマルクスの思想の中にあるという。

晩期のマルクスは、資本主義が利潤追求の果てに、人々に貧富の差をもたらし、地球環境そのものを破壊するとした。
成長経済の資本主義の改革と共に、コミューン的生き方が、人の人生を豊かなものへと変えていく可能性がある。

その例としてスペイン・バルセロナがある。
2020年1月、バルセロナは「気候非常事態宣言」を出した。
世界中に先駆け、最初に「フィアレス・シティ」の旗を掲げた。
「フィアレス・シティ」とは、国家が押しつける新自由主義的な政策に反旗を翻す革新的な地方自治を指す。
国家に対してもグローバル企業に対しても、恐れずに住民の目指すべき行動を示す。
2050年までの脱炭素化などを掲げた十数ページにも及ぶ分析と行動計画を備えたマニフェストがある。
宣言は、シンクタンクによるものではなく、市民の力によるものであり、二酸化炭素排出量削減のために、都市公共空間の緑化、電力や食の地産地消、公共交通機関の拡充、自動車や飛行機・船舶の制限、エネルギー貧国の解消、ゴミの削減、リサイクルなど全面的な改革プランである。
このプランは、10年にも及ぶ粘り強い市民の取り組みがあった。
スペインは、リーマンショック以降、EUの経済危機があり、当時の失業率は25%にも達した。
貧困が広がり、社会保障や公共サービスの縮小を余儀なくされた。
物価の上昇、家賃の高騰、新自由主義的グローバル化の矛盾が噴出した街でもあった。
2011年、この酷い生活状況に耐えかねた若者たちが中心となって「15M運動」と呼ばれる広場占拠運動が開始された。
そして地域密着型の市民プラットフォーム政党ができ、2015年躍進、住民の権利のための活動を続けている。

現在の気候変動にかなう経済モデルへの変更は、私たち自身の生活を守るためのものでもある。
物があふれる豊かさではなく、持続可能で、《心が満足する》生き方を模索する必要がある。
気候変動で数が増えて行き場を失くす野生動物がいる一方で、絶滅するとされる動物も多くいる。
冠水で野菜が取れず、異常気象で果物の新芽は被害を受け、豊かな未来を期待する生活は、不安に溢れたものになっている。
エコバッグやマイボトルだけで、生活が守れるとは到底思えない現状を、今一度立ち止まり、環境をはじめ、いろいろなものを見渡し・見直す時期なのかもしれない。

(J)

 

 

「人新世の「資本論」」