門井 慶喜 (かどい・よしのぶ)
1971年群馬県生まれ。
同志社大学文学部卒業。
2003年、第42回オール讀物推理小説新人賞を「キッドナッパーズ」で受賞しデビュー。
’15年に『東京帝大叡古教授』が第153回直木賞候補、’16年に『家康、江戸を建てる』が第155回直木賞候補となる。
’16年に『マジカル・ヒストリー・ツアー・ミステリと美術で読む近代』で第69回日本推理作家協会賞(評論その他の部門)を受賞、同年に咲くやこの花賞(文芸その他の部門)を受賞。
’18年に『銀河鉄道の父』で第158回直木賞を受賞。
他の著書に『パラドックス実践 雄弁学園の教師たち』『屋根にかける人』『ゆけ、おりょう』『定価のない本』『自由は死せず』『東京、はじまる』などがある。

宮沢政次郎は、花巻で質屋と古着屋を営んでいた。
また政次郎は、町会議員でもあったし、講習会などを開き教育活動もしていた。
明治29年(1896)年に妻イチとの間に長男・賢治が生まれる。
小さい頃から、学校で優秀な成績だった政次郎だったが、『質屋に学問はいらん』という父・喜助の言葉に従って小学校を出ると、家業を学び始めた。
宮沢家は、この花巻でも一番の質屋だ。
その政次郎は、6年後の秋に赤痢にかかった賢治を、周囲の反対を押し切っても、必死の思いで看病した。
普段は、家長として振舞っていたが、この時は、我が子可愛さで、必死だったのだ。

中学校に行きたいと賢治が言い出した時、『質屋に学問はいらん』という父の教えを守ろうとした。
が、賢治はみるみるうちに憔悴していき、ついに政次郎は賢治に中学校へ行くことを許す。
そして、賢治は、盛岡農学校への進学することになる。

政次郎とイチとの間には、長男の賢治、長女のトシ、シゲ、清六、クニの子どもがいる。
長女のトシは、賢治と同じように成績がよく、高女を首席で卒業し、東京目白の日本女子大学校に進学し、次男の清六も盛岡中学へ行く。
農学校に通う賢治からくる便りは、適当な理由のついたお金の無心だった。
政次郎は、その申し出を断ることなく、お金を送り続ける。
何度も何度も…。
賢治のために…。

雨ニモマケズ
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑さニモマケヌ
丈夫ナカラダヲモチ
欲ハナク
決して嗔ラズ
イツモシズカニワラッテヰル

天才と言われた宮沢賢治の究極の親子の物語だ。
父親の目を通して語られる賢治の物語は、今まで持っていた賢治のイメージとは違う姿だった。
新鮮な感じを持ちながら、人間《宮沢賢治》と《その父親》との触れ合いを楽しめる作品であった。

(J)

「銀河鉄道の父」