村山 由佳 (むらやま・ゆか)
1964年、東京生まれ。大学卒業後、会社勤務、塾講師などを経て、93年「天使の卵~エンジェルス・エッグ」で第6回小説すばる新人賞を受賞。
2003年『星々の舟』で第129回直木賞を受賞。
主な著作に『翼』『すべての雲は銀の…』、第4回中央公論文芸賞受賞・第22回柴田錬三郎賞・第16回島清恋愛文学賞を受賞した『ダブル・ファンタジー』、「おいしいコーヒーの入れ方」シリーズなどがある。
他の著書に『ダンス・ウィズ・ドラゴン』『天翔る』『放蕩記』『天使の柩』などがある。

暁は、今から15年ほど前、大学2年の頃に家を飛び出した。
それ以来一度も家には帰ってなかった。
戻りたいとも思わなかった。
その暁にかかってきた電話は、自分を育ててくれた母・志津子がくも膜下出血を起こして命が危ないという知らせだった。

父・水島重之は、東京の西のはずれで大工をしていた。
実母である晴代は、暁が小さい頃に亡くなった。
ちょうど重之の興した工務店が軌道に乗り始めた頃だった。
男手一人では身動きが取れなかった重之は、家政婦を雇った。
それが志津子だった。
志津子は、以前にも水島家に勤めていたことがあり、志津子の娘・沙恵は、暁より一つ年下だった。
再婚後、志津子は暁を実の子ども同様に可愛がり育てた。

父・重之は、志津子や子どもたちを殴った。
志津子は、子どもを庇い殴られることもあった。
子供たちは父には懐かなかった。

暁は、兄の貢と沙恵と美希の四人兄妹だ。
沙恵は連れ子で、美希とは母親が違うことを知ったのは、沙恵が中学に入った頃だった。
沙恵は、小さい頃から暁を慕って、『お兄ちゃんのお嫁さんになる』と言っていた。
やがて、暁と沙恵は禁断の恋をする。
そして貢は、野菜作りに熱心に取り組む中で、自分の居場所を探し求める。
美希は結婚している人と恋愛中だ。
貢の娘の聡美は、中学時代からのいじめで、自分に自信が持てない。

家族とは何か?
家とは何か?
愛とは?
それぞれの思いを秘めながら、それぞれに自分の幸せや愛を探す。
家族という「家」という船に乗って無限の時と愛と幸せを探し求め、模索しながら……。

(J)

「星々の舟」