乃南 アサ Nonami Asa
1960(昭和35)年、東京生れ。
早稲田大学中退後、広告代理店勤務などを経て、作家活動に入る。
’88年『幸福な朝食』で日本推理サスペンス大賞優秀作になる。
’96(平成8)年『凍える牙』で直木賞受賞。
他に『ボクの町』『団欒』『風紋』『晩鐘』『鎖』『嗤う闇』『しゃぼん玉』『ウツボカズラの夢』『風の墓碑銘』『ニサッタ、ニサッタ』『犯意』(共著)、エッセイ集『いのちの王国』『ミャンマー』など多数。
巧みな人物造形、心理描写が高く評価されている。

小森谷芭子は29歳。
芭子は、裕福な家で育ったが、大学に在籍中の22歳の時、ホストに入れあげ、彼に貢ぐために、伝言ダイアルで男性を見つけては、ホテルに連れ込んで薬を飲ませ、眠らせて金を盗んでいた。
そのうちの一人の男性が、警察に通報し、昏睡強盗罪に問われ、7年間の刑務所暮らしを送った。
江口綾香は41歳。
彼女は、結婚直後から始まった長年にわたる夫の暴力に耐えていた。
結婚10年、流産に何度も苦しみ、やっと生まれた子どもにその暴力が及びそうになり、思い余って、夫が酔って寝ているときに、首を絞め、殺害をした。
5年間の刑期を終えて、出所した。

そんな二人は、刑務所で知り合い、互いの事情を知ることになる。
ひとまわり年の離れた二人だったが、妙に気が合い、下町の谷中で新しい人生を歩み始めていた。
芭子は、家族からは絶縁状態にあり、大好きだった祖母の古い家に一人で暮らしている。
一方、綾香は、一人アパートで暮らし、パン屋を開く夢を持っている。
二人は、暗い過去を人に知られないように、息をつめて新しい人生を歩み始めていた。
できる限り、人とは話さない。
余計と思うことはしない。

とは言いながらも、綾香は魚屋さんに恋をする。
芭子は、アルバイトで勤めている電気治療院で、ポロリと刑務所時代の言葉が出てしまったりする。
警官に恋される芭子にとって、警察は天敵のようで、アレルギー満載だ。
それにパン屋を開くために貯めていた貯金を、綾香は詐欺で奪われることも起きる。

一年、二年と月日は流れる中で、二人は必死に、生き方を模索する。
心理描写や人間造形に定評のある作家・乃南アサさん。
静かでおとなしい芭子や明るく楽天的に見える綾香の意外な一面も織り込みながら、生きることを問いかける物語である。
ひそやかに目立たず、そして夢に向かう二人に、共感とも呼べる心地よさを覚える作品だった。

(J)

 

「いつか陽のあたる場所で」