篠田 節子 しのだ・せつこ
1955年、東京都八王子市生まれ。
東京学芸大学卒。
90年『絹の変容』で第3回小説すばる新人賞を受賞。
96年『ゴサインタン』で第10回山本周五郎賞、97年『女たちのジハード』で第117回直木賞、09年『仮想儀礼』で第22回柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で第61回芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で第10回中央公論文芸賞を受賞。

《ジハード》は、「聖戦」、元々は、イスラム教徒に課せられた宗教的義務で、必ずしも武力によるものではなく、心、論悦、支配、剣の4種のジハードに分かれ、イスラム教徒の支配に従って税を納めることによって、宗教に自由を認め、武力的、政治的な争いもジハードと呼んだらしい。
女たちのジハードとは何か?
強いて言えば、女たちの聖戦?
では何と闘うの?
男性優位な社会に、女として生きていくことは、さまざまな思いや困難がある。
登場人物は、中堅保険会社に勤める5人のOLたち。
自分を活かし、自分のパワーを信じ、それぞれの生活や結婚に奮闘する姿を、時にはたくましく、時にはけなげに、そしてまた美しく描いている。

みどりは、社内結婚と同時に会社から出向が命じられる。
有能なOLとして働いてきたみどりだったが、余儀なく退職の後、その境遇を逆手に取るように妊娠・出産し、新しい仕事にも就く。

美人で、上司からの受けもいいリサは、結婚願望が強い。
リサは、結婚相手をあの手この手の作戦で、条件のいい相手を探すが、なかなか思うようにいかない。
ふとしたことで知り合った東京大学医学部の医者に心惹かれ、今まででも最低の条件の結婚に踏み切る。

紀子は、大人しい。
その紀子は、妊娠後結婚した。
誰もが羨む結婚だったが、家事をこなすことができない。
そして、紀子は、家事脳力のないことにイライラする夫から暴力を受ける。
『自分が悪いから…』と仲間にな泣きじゃくる紀子だったが…。

沙織は、上昇志向。
結婚に解決策は求めない。
冷血でも薄情でもないが、お愛想や遠慮もためらいもない。
得意の英語で人生を切り開こうとするが、翻訳の仕事は自立するにはかなり難しい。
それならばと、アメリカに留学し、活路を見出そうとするが、次々と困難に出会う。
だが諦めない。
きっと何か、自分に、これと思う何かがある。
ただ自分を信じて進む。

康子は、結婚にも踏み惑い、34歳になってしまった。
付き合ってきた様々な男にも幻滅し、ついに自分の城を持つことになる。
そんな中、ふとしたことで出会った男は、無農薬農業で行き詰っている。
結婚の申し込みに戸惑いながらも、独立事業を計画することになる。

『現代女性への強力な応援歌』(あとがきより 抜粋 田辺聖子著)で、ゆたかな示唆が含まれる作品である。
女性の職場は広がりつつあるが、職業教育などや住宅ローンなどまだまだ課題満載だ。
女が一人で生きようとすると、独学独習という現実を、たくましく、またしたたかに、生きていくことを応援する内容は、ハラハラしながらも心地よい気分を誘ってくれる、そんな物語であった。

(J)

 

「女たちのジハード」