長尾徳子 ながお・のりこ
作家・脚本家。
漫画小説情報誌の出版社勤務、音響制作を経て独立。
代表作「伯爵と妖精」全話脚本・シリーズ構成。
『俺達急行 A列車で行こう』ノベライズなど。
桑原裕子 くわばら・ゆうこ
東京都出身。
劇団KAKUTA主宰。
1996年劇団「KAKUTA」を結成。
2001年より劇作・演出を手がける他、俳優としても出演し、中心的な役割を担っている。
外部プロデュース公演や映像作品への脚本提供、外部での演出、出演も多数。
08年『甘い丘』で第52回岸田國士戯曲賞最終候補、09年再演時には作家・演出家として第64回文化庁芸術祭新人賞を受賞。
15年『痕跡』で第59回岸田國士戯曲賞候補、第18回鶴屋南北戯曲賞受賞。
18年『荒れ野』で第70回読売文学賞受賞。
ある夜、タクシー運転手のこはるは、家族に暴力をふるう夫を殺害した。
こはるは、三人の子どもたちの好物を作り、15年後には必ず戻ると言い残して、警察へと自首する。
稲丸タクシーは、こはるの事件の後、地元の目やさまざまな噂もあったが、家族やこはるに理解のある人たちによって運営されている。
親父の時代から、家族と関わってきた進が、今は社長をしている。
長女の園子は、美容師の夢は諦めて、今はスナックで働く。
長男の大樹は、結婚して子供が一人いた。
妻の二三子は、福ちゃん電気の社長の娘だった。
その福ちゃん電気に勤めている大樹だが、妻とのけんかは絶えず、別居状態だった。
次男の雄二は、東京に出ていたが、最近家に帰ってきている。
15年後、母はその約束通りに帰ってきた。
以前から電話番として働く弓に、子どもたちもよく懐いていて、心を開いていた。
弓は、夫を亡くし認知症の姑と同居していて苦労が絶えない。
新人のタクシー運転手の堂下は、無口だ。
何か事情があるのだろうか、でも人には話さない。
こはるが帰ってきた日に、ガレージで寝ていたヨシナガは、ニセコでこはると一緒だったらしい。
彼は、片言の日本語で話し、でも日本人だという。
さまざまな人々の触れ合いの中、家族は母の帰宅をどう受け止めていいのか思案していた
母の起こした事件によって、人生が大きく変化してしまった三人の子どもたちは、母とどう向き合っていいのかわからなかった。
葛藤と戸惑いの中で、一度崩壊した家族の絆は取り戻せるんだろうか。
愛とは何か、家族とは何か。
そんな問いを突き付ける物語だった。
(J)