蓮見 恭子 Hasumi Kyoko
大阪芸術大学美術学科卒業。
2000年頃から大阪の「創作サポートセンター」を受講しながら、作品を書きはじめ、2010年『女騎手』で第30回横溝正史ミステリ大賞の優秀賞を受賞。
著書に『女騎手』『無名騎手』『ワイルドピッチ』『アンフェイスフル 国際犯罪捜査官・蛭川タニア』『禅を、君に』『シマイチ古道具商-春夏冬人情ものがたり―』『始まりの家』『MGC マラソンサバイバル』などがある。

岸本十喜子は、大阪の住吉大社近くでたこ焼き屋を営んでいる。
夫の進が、3年前に他界し、一人息子の颯は、18歳で家を出て以来、行方不明のままである。

十喜子のたこ焼き屋のある商店街は、古くからの馴染みの人たちがいる。
辰巳は、組合理事長の他に、「地域の暮らし見守り隊」住之江区の隊長でもある。
ちょっとおせっかいだが、気にかかる子どものことを、まるで、自分の孫のように心配する。
「キッチン住吉」には、島本佳代がいる。
子ども食堂を併設した「キッチン住吉」は、小学校以下の子どもに限って200円で食事ができる。
シルバーカーに乗るタヅ子は、「ひまわり」でモーニングを食べ、追い出されるまで粘り、気候のいい時期は十喜子の店先に置いた床几に座って居眠りをしたり、客と喋るのがいつもの決まりだった。

いつも住吉っさんへのお参りを欠かさぬ十喜子だ。
そんな十喜子の身のまわりに起きるささやかだが、重要だともいえる様々な出来事を皆の力で解決していく。
そして、10年前に家を出た颯は、想像を超えた姿で、十喜子の前に姿を現す。

読むながら、心がほっとする、そんな物語だ。
意外な展開は、《エエエ—、そんな…》ではあるが、それもまた愛嬌になるような作品だ。
仄々とした下町人情は、懐かしくもあり、心を温めてくれるエッセンスのようだ。
たこ焼きの美味しそうな匂いのする、そんな物語でもあった。

(J)

 

「たこ焼きの岸本」