篠田 節子
1955年、東京都八王子生まれ。
東京学芸大学卒。
90年「絹の変容」で第3回小説すばる新人賞を受賞。
96年「ゴサインタン」で第10回山本周五郎賞、97年「女たちのジハード」で第117回直木賞を受賞。
27歳で天逝した明治の日本画家である河野珠枝は、洋画の卓越した技術を用いながらも伝統的な花鳥風月の作品は描いた。
だが作品は凡庸で、後に続く青木繁や黒田清輝などの添え物のように扱われてきた。
また、正確な写実は、写真で代用でできる作品でもあった。
珠枝の最後の作品「朱鷺飛来図」の前に立った谷口葉子は、図録の中で大家の作品に埋もれるようにごく小さく扱われていた。
闇の中を飛来する朱鷺と牡丹の花の花鳥風月画である。
珠枝の最後の作品の「朱鷺飛来図」は、彼女の今までの作品とは違い幻想画で、妖しい魅力があった。
葉子は、イラストレーターである。
美大在学中に子供用の雑誌に入選して以来、紅毛碧眼の美少年や美少女を描き、葉子の右に出るものはないといわれている。
しかし30を2つ過ぎたあたりから、奇妙な違和感を覚え、遠ざかり始めた。
そこに、出版社から小説のカバーの依頼があり、「朱鷺飛来図」を描くことになった。
作家は、人気があり、ハイパーバイオレンス小説を書く美鈴慶一郎だ。
慶一郎は、「朱鷺飛来図」が、背筋のぞくっとする絵だという。
珠枝の死は、凄まじいもので、雪深い中、庭の石で何度も頭を叩きつけて死んだ。
慶一郎と葉子は、珠枝や「朱鷺飛来図」を調べるために、珠枝の新潟の生家に行った。
そして、広い屋敷にある珠枝の写真を見る。
大きなリボンで髪をくくった珠枝は、息を呑むほどの清楚さと艶やかさが混じりあい、息を呑むほどの美しさだ。
さらに、「朱鷺飛来図」を見た二人は、驚きと恐怖に襲われる。
絵は、まるでゲシュタルト心理学の地と図の反転のように、見方を変えると地獄図となった。
そして二人はさらに、珠枝の足跡を辿るために、奥多摩へと二人は向かう。
ホラー小説か、はたまた恐怖小説か。
「朱鷺飛来図」と珠枝に秘められた謎を解く二人。
終わりに近づくほどに面白さが増していくその妙技は、珠枝のように妖しく光り、読む人を魅了する。
先へ先へと大急ぎで読み進んだ一冊であった。
(J)