井岡 瞬 Ioka Shun
1960年東京都生まれ。
2005年『いつか、虹の向こうへ」で第25回で横溝正史ミステリ大賞とテレビ東京賞をW受賞しデビュー。
著書に『代償』『もしも俺たちが天使なら』『痣』『本性』『冷たい檻』など。

大手製薬会社社員の藤井賢一は、予期せぬ会社の不祥事の責任を取らされ、系列会社に出向になる。
会社の上司とは、一年で戻る口約束をし、東京に妻・倫子と娘・香純を残し、単身赴任で山形にいる。
肩書は《支店長代理》だが、実質は第一線の営業だった。
出向先の「東北誠南医薬販売」は、いわゆる置き薬販売をしている。
営業経験のない賢一は、三歳年上45歳の松田支店長から、嫌みと皮肉ばかり言われて、食事もろくにのどを通らない。去年の六月、悪夢としか表現のしようのない騒動での急な移動になってから自宅に帰れたのはたった二回だ。
三日だけもらえた夏季休暇と四日間だけ半ば強引に休んだ年末年始休暇だ。

一日の仕事を終え帰り支度をして、部下の高森久実と地元の郷土料理へ行く。
高森は、東京で一人暮らしがしたいので、東京の本社に賢一が帰る折に、くっ付いて一緒に行こうとしていた。
その時だった。
妻の倫子から一通のメールが届いた。
〈家の中でトラブルがありました〉
そして数時間後、警察から連絡が入り、倫子が傷害致死容疑で逮捕されたという。
殺人現場はどうやら自宅らしい。
しかも倫子が殺した相手は、本社の常務である南田隆司だった。

単身赴任で一人山形にいる賢一には、何が何だかさっぱり訳が分からない。
一体何が起きたのか。
なぜ本社の上司が自分の家にいたのか。
倫子が殺人を犯すなんてとても信じられない。

様々な疑惑と思惑が交差するストーリーである。
「中年男の鈍感さは、それだけで犯罪」(本文 抜粋)
吊るされた足場のように不安定な状況下、しかも四面楚歌だ。
賢一は、絶望のなかでも自分の思いを信じ、妻の無罪を、事の真相を追求し始める。

結末まで読まないと犯人は分からない。
どんでんがえしの話の展開は、良いように読者を裏切る。
厭なことを避けて生きてきた中年男性賢一の、人生のどんでん返しになるかもしれない物語だった。

(J)

「悪寒」