垣谷 美雨 Kakiya Miu
1959年兵庫県生まれ。
明治大学文学部卒業。
2005年「竜巻ガール」で、第27回小説推理新人賞を受賞し、デビュー。
誰もが直面する社会問題を、ユーモア溢れる筆致で描く作品が多い。
著書に『70歳死亡法案、可決』『老後の資金がありません』『四〇歳、未婚出産』『夫の墓には入りません』『姑の遺品整理は、迷惑です』『うちの子が結婚しないので』『うちの父が運転をやめません』など多数。

専業主婦の香山知子は、午前中はテレビ、午後は掃除機をかけただけ、夕食の準備に取り掛かる頃には、体の奥から湧き上がる不快後悔と無念さのまま、流しの前に立つ。
長男は大学生、長女は高校生で、親の手のかからない年になっていた。

黒川薫は、「他社との差別化を図るために」というプロジェクターに映し出される男性の得意満面で説明しているコンサルタントの話に、ふっと居眠りしそうになる。
名もない短大を出て地元の男性と結婚している二人の妹は、結婚して母親になっている。
地元の母は、妹二人を誉める。
結婚して子供を育てるのが、そんなに偉いことなのか。
一生懸命に勉強をして、難関と言われる一流大学を出て、努力して、二年前には副部長になった。
母に褒められたい一心で頑張ってきた。
47歳になっていた。

赤坂晴美は、デッキブラシで風呂場のタイルをこすっている。
この大浴場が終わったら、次はジャグジー、その次はサウナ、最後に露天風呂掃除だ。
昼間はコンビニでレジを叩き、夜中はスーパー銭湯で掃除をしている。
コンビニは自給850円で、銭湯は時給1200円。
高校中退の47歳女には、正社員などあるはずもなく、高い家賃の東京で生活するには、昼間働くだけでは食べていけない。
タイムマシンで戻れるものなら高校時代に戻りたい。
そしたらあんな男に騙されないで、ちゃんと高校を卒業する。
多くは望まない。
晴美は、平凡でいいと思った。

そんな3人は、高校の同級生だった。
親しくはなかったし、話もほとんどしたことがなかった。
その3人は、ある日の新宿のデパートの7階の地元の物産展でばったりと出会う。
懐かしさもあって3人で飲みに行こうということに話になった。
店の名前は《通来の客》。
「G線上のアリア」の流れる感じ良い店だった。
飲み屋というよりは、高級レストランという雰囲気だ。
店員に連れられて地下の案内される。
そして、そこで、3人は、30年前に自分たちの人生をリセットすることになる。

もう一度、高校生からの生きなおしの物語である。
今までの人生を繰り返さないために、3人は考え考え人生設計をする。
知子は女優としての人生を、薫は好きな人と結婚して生きる人生を、晴美は大学を卒業し安定した生活のある人生を歩み始めるが…。

もし、昔に帰れるなら何歳に戻りたい?
そして、どんな人生を送りたい?
そんな望みをかなえられた3人の女性の、夢と希望?の物語である。
今の生活から抜け出るための努力は、どういう結末を迎えることになったのだろうか。

現代社会の問題を織り込んで描かれた内容は、3人のそれぞれの人生を追いかけるも楽しさと同時に、100%の人生はないという現実を感じさせてくれる展開となる。
澱みなく楽しみながら読める物語であった。

(J)

「リセット」