塩田 武士 (しおた たけし)
1979年兵庫県生まれ。
神戸新聞社在職中の2011年『盤上のアルファ』でデビュー。
2016年『罪の声』で第7回山田風太郎賞を受賞。
”週刊文春ミステリーベスト10”で国内第1位、2017年本屋大賞3位に。
2018年には本書『騙し絵の牙』が本屋大賞6位と、2年連続本屋大賞ランクイン。
『歪んだ波紋』で第40回吉川英治文学新人賞を受賞。

俳優・大泉洋を主人公に”あてがき”し、話題になった作品である。

大手出版社「薫風社」で、カルチャー誌の編集長をする速水輝也は、笑顔とユーモア、ウィットに富んだ会話で周囲を魅了する。
作家・二階堂大作の作家40周年記念祝賀会でも、各出版社のそうそうたるメンバーが参加する中、速水にスピーチの声がかかる。
“二階堂の隠し子”と蔭で言われるほどの仲である。

今、出版業界は厳しい。
本・雑誌などの出版物は以前ほど売れない。
オンライン化が進む中、速水は、出版の要として作家にも、丁寧に接する態度を変えようとはしない。
だが、その速水が編集を担当している月刊誌『トリニティ』にも、上司から廃刊の可能性が滲まされる。
現に、長い間、看板だった文芸誌『小説薫風』は、廃刊だ。
何とかして廃刊から免れようとする速水は、次第に組織に翻弄されていくことになる。

出版業界の光と闇。
そして、その世界を泳ぐ速水にも、笑顔下に隠した別の顔があった。
冷え切った家庭生活、暗躍する情報収集や思いもかけない人間関係や人脈。
そして、組合による様々な抗議の声は上層部には届かず、ついに速水は…。

最後のどんでん返しは、まさに「騙し絵」だ。
最終章に語られる速水の過去は、この物語に思いがけない結末を予感させる。
文中に出てくるウィットの富んだ会話は、読んでいても十分楽しめる内容だ。

魅力的な速水の活躍を十分楽しめる力作である。

(J)

「騙し絵の牙」