佐藤 正午
1955年8月25日、長崎県佐世保市生まれ。
北海道大学文学部中退。
1983年、『永遠の1/2』で第7回すばる文学賞を受賞。
2015年、『鳩の撃退法』で第6回山田風太郎賞を受賞。
2017年、本作で第157回直木賞受賞。
ほかに、『5』、『身の上話』、『アンダーリポート/ブルー』、『小説家の四季』、『小説の読み書き』など。

小山内堅は、丸の内南口を左手に見おろせるホテルの2階で、亡くなった妻の高校時代の友人である緑坂ゆい母娘と会う。

小山内は、青森県八戸市に生まれた。
東京の私大へ進学し、石油元売りの中堅どころの企業に就職した。
製油所、ガソリンスタンドなどの研修を経て、東京支社で2年、4年目に九州に転勤になった。
福岡支店で5年、30歳になるまでの間に同郷の八戸高校の後輩の藤宮梢と結婚し、娘の瑠璃が生まれた。
その後勤務は東京に移り、社宅の千葉の稲毛に住んだ。
娘の瑠璃が7歳の時、意識が混濁するほどの高熱を出す。
ただの風邪とは思えない状態だったが、ちょうど1週間で熱病は去った。
それから瑠璃の様子に変化が生まれた。
小学校3年生とは思えないような瑠璃の言動が出現する。
妻の梢は、瑠璃は子どもを演じているだけだと言う。
小山内は、妻の精神を案じもしたが、瑠璃の家出で騒動は終わる。
そして、11年後、高校の卒業式の後、瑠璃と妻の梢の二人は、車の事故で即死した。

その娘の瑠璃が、高校時代に描いた人物画を持ち、小山内は、緑坂母娘に会う。
娘の名前はるり。
自身を小山内の娘の「瑠璃」の生まれ変わりだという。
そして、自分が高校時代に描いた人物は、《三角哲彦》で、元恋人だという。
信じがたい思いもありながらも、小山内は、納得に近い思いもあった。

「あたしは、月のように死んで、生まれ変わる—。」
3人の男と一人の女性の、30余年に及ぶ人生の物語である。
3人の過ぎ去りし日々と人生が交錯し、織り込まれていくさまは、読むものを魅了し物語へと引き込んでいく。
輪廻転生を扱うこの物語は、読みようによってはロマンティックでもあり、また、恐ろしくもあった。

(J)

 

 

 

 

 

「月の満ち欠け」