パオロ・ジョルダーノ Paolo Giordano
1982年トリノ生まれ。
トリノ大学大学院博士課程修了。
専攻は素粒子物理学。
2008年、デビュー長編となる『素数たちの孤独』は、人口6000万人のイタリアでは異例の200万部超のセールスを記録。
同国最高峰のストレーガ賞、カンピエッロ文学賞新人賞など、数々の文学賞を受賞した。
他の著書に『兵士たちの肉体』、ll neroe e largento、Divorare il cieloがある。

訳者 飯田亮介
イタリア文学翻訳家 1974年生まれ。
日本大学国際関係学部国際文学科中国文化学コース卒。
中国雲南省雲南民族学院中文コース履修。
イタリア・ペルージャ外国人大学イタリア語コース履修。
訳書にジョルダーノ『素数たちの孤独』『兵士たちの肉体』、『リラとわたし』他多数。

本書は、2020年春、ローマに暮らすイタリア人作家ジョルダーノの、コロナによる非常事態下で綴られたエッセイである。
書かれた時期は、2020年2月末から3月初め。
著者がこの本を書くきっかけとなったのは2020年2月25日付の『コリエーレ』紙に寄稿した『混乱の中で僕らを助けてくれる感染症の数学』という記事だという。
新型コロナウィルスがイタリア北部の六州で大規模な広がりを見せ始めた時期に、数学的アプローチで感染症流行という現象をわかりやすく書き、大きな反響を呼んだという。
数学は、著書の得意科目であり、高校の頃には、ひたすら数式を整理して過ごした͡ことがあったらしい。
SIRモデルを使い、感受性人口(ウィルスの感染する可能性のある人)・感染人口(すでに感染した人)・隔離人口(ウィルスには感染させることができない人)に区分した。
また、感染症の流行はビリヤードの玉突きと同じように、一つが二つに、二つが四つになど、想像を超える爆発的な広がりを見せる経緯を説明する。
筆者がこのエッセイを書いている時には、まだイタリアは非常事態下ではあったが、まだまだ楽観的な見方もあったようだが、その後のイタリアのコロナウィルス感染症の広がりは、中国を超えるものだった。

ウィルスは、細菌に菌類、原生動物と並び、環境破壊が生んだ多くの難民の一部だ。
自己中心的な世界観を少しでも脇に置くことができれば、新しい微生物が人間を探すのではなく、僕らのほうが彼らを巣から引っ張り出しているのがわかるはずだ。
増え続ける食料需要が、手を出さずにおけばよかった動物を食べる方向に無数の人々を導く。
たとえばアフリカ東部では、絶滅が危惧される野生動物の肉の消費量が増えており、そのなかにはコウモリもいる。
同地域のコウモリは不運なことにエボラウィルスの貯蔵タンクでもある。
コウモリとゴリラ―エボラはゴリラから簡単に人間へと伝染する—の接触は、木になる果実の過剰な豊作が原因とみなされている。
豊作の原因は、ますます頻繁になっている豪雨と干ばつの激しく交互する異常な気象で、異常気象の原因は温暖化による気象変動で、さらにその原因は……。
本文 抜粋

いずれにしても、いつかコロナは収束する。
そして私たちは、何を学び、何をどう生かすか。
また、何を守り、何を捨て、どう生きていくのか。
簡単には答えのでない難問を突き付けられている時代なのだろう。

(J)

 

 

「コロナの時代の僕ら」