バリー・ユアグロー Barry Yourgrau
1949年南アフリカ生れ。
’59年よりアメリカに移住して、’70年代から文芸誌や芸術誌に作品を発表しはじめた。
’80年代に入ってからは、ニューヨークやロサンジェルスで、自作のパフォーマンスも行うようになった。
作品集に『セックスの哀しみ』など、最新作に”Haunted Traveller”がある。
シュールで、悪魔的なショート・ショットを得意と するが自分の夢を題材に使うことはないという。
訳者 柴田元幸 Shibata Motoyuki
1954年、東京生れ。東大文学部助教授。
『生半可な学者』で講談社エッセイ賞受賞。
アメリカ現代作家の翻訳のほか、『死んでるかしら』『愛の見切り発車』などのエッセイ集も出している。
『賭けをした男が牛の体内にもぐり込む。
もぐり込んでみて、結局そこに居すわることにする。
……
それから男は横になり、うとうとする。
もう落ち着きを取り戻した牛の動きは、ゆったりと眠りをさそう。
男の友人たちはまだ外にいて、半狂乱になっている。』
本文 「牛乳 Milk」より抜粋
『私は母と二人で海水浴に来ている。
私は母を首まで砂に埋める。
「もういいだろ、さ、出しておくれ」と母がしびれを切らして言う。
「息もろくすっぽできやしない」。
「ものすごい大金をキャッシュでくれたら出してあげる」と私はからかって答える。
そして母の体を掘り出しにかかるが、できない。
砂がまるで石みたいなのだ。
セメントに変わってしまったのである。
「ねえ、冗談はやめとくれ、出しておくれ、息ができないよ」と母はあえぎながら言う。
「冗談なんかじゃないよ、何かがどうかしちゃったんだ」と私は言って、ごりごり必死にセメントを引っかく。』
本文 「セメント Cement」より抜粋
シュール・シュールな物語が、149本収められている超短編集である。
奇妙さは、夢のような感じがして、理解するのは不可能なものが多い。
幻覚・妄想・ホラーのような世界は、作者の発想の豊かさを現すのだろうか。
また、読んでいると不思議に思いに駆られる。
そして、心の中の何か興味を示す。
そんな物語であった。
(J)