山田 詠美 Yamada Eimi
1959(昭和34)年、東京生れ。
明治大学文学部中退。
’85年『ベッドタイムアイズ』で文藝賞受賞。
同作品は芥川候補にもなり、衝撃的なデビューを飾る。
’87年には『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞受賞。
さらに、’89年『風葬の教室』で平林たい子文学賞、’91年『トラッシュ』で女流文学賞、’96年『アニマル・ロジック』で泉鏡花賞を受賞する。

時田秀美は、確かに成績が悪い。
17歳の彼は、サッカー好きの高校生だ。
勉強はできないが、女性にはよくもてる。
ショット・バーで働く年上の桃子さんは、彼の恋人だ。
父親は居らず、母親と祖父との3人暮らしである。
母親と祖父は、彼のことをよく理解している。
周囲の人から、父親のいないことは可哀そうだとか思われることがあるが、実際は全くそうではない。
だが、学校もどこか居心地が悪い。

母親の仁子は、美人でおしゃれだ。
恋多き彼女は、仕事やデートに忙しい。
秀美の家が貧乏なのは、母親が買う余計なドレスや化粧品の浪費にあった。
祖父は、散歩の途中で出会うおばあちゃんに、しょっ中恋をして、秀美に相談を持ち掛ける。
髪の毛なんかないくせに、彼のヘアムースを勝手に使いおめかしをする。

サッカー部の顧問の桜井先生は、いいやつである。
先生に向かっていいやつとは無礼だと思うが、秀美は彼のことが好きだった。
美形というのではないが、いい顔をしている。
女生徒にも、憧れている者も多い。
いい顔をしていて、女にもてる男を、彼は無条件に尊敬している。
複雑な家庭環境の中で育ってきた秀美は、他の人々とかなり価値観が違っている。

母親の基本方針で育てられた時田秀美は、自身の価値観で周囲を見て、考え、生きようとする。
理解されにくい彼であったが、いろいろな先生や友達との出会い、また、様々な出来事の中で、彼なりの生き方を模索する様子が描かれている。
学校の勉強はできないが、別の意味で勉強をしている時田秀美の心模様と成長を描いている物語だ。
その生き様は、悩みながらも、どこかキュートな感じがする。
また、彼の持つ疑問の純粋さは、ふと考えさせられてしまう。
そんな面白く楽しい物語である。

(J)

「ぼくは勉強ができない」