内田 樹 (うちだ・たつる)
1950年東京生まれ。
東京大学文学部仏文科卒業。
東京都立大学院博士課程中退。
神戸女学院大学文学部教授。
専門はフランス現代思想、映画論、武道論。
著書に『ためらいの倫理論』『寝ながら学べる構造主義』『「おじさん」的思考』『下流思考』『街場の中国論』『村上春樹にご用心』『ひとりでは生きられないのも芸のうち』『身体知』『身体を通じて時代を読む』『私家版・ユダヤ文化論』で第六回小林秀雄賞を受賞。
(2008年現在)

私たちは全員がそれぞれの「ウロコ」を通じて世界を認識しています。
私は私の「ウロコ」を通じて、あなたはあなたの「ウロコ」を通じて。
どちらの「ウロコ」の透過度が高いとか、屈折率が蜂の頭とか論じても、あまり意味はありません。
でも、「ウロコ」が眼から剥がれないのなら、すべての人間はそれぞれが妄想的につくりあげた虚像を観ており、世界経験に共通の基盤はありえないのだ……と虚無的になるのは早とちりです。
私たちの世界像がどのように歪み、汚れていても、だからといって世界はまったく不可知であるわけではありません。
「私のウロコを通じて見える世界」と「あなたのウロコを通じて見える世界」を突き合わせて、その異同の検証を通じて、直接的に誰も見ることができないはずの「現実」を再構成することは(論理的には)可能だからです。
もし、複数の、いろいろなタイプの「ウロコ」を通じて、頻度で同一の像が出現する場合、これは人間たちに「類的」に与えられた像ではないかと推論することができます。
区々たる社会集団の差異を超えて、人類全体に共通する「視野の歪み、視像の汚れ」は(「人間世界地域限定」という条件付きで)「あるがままの自然」として取り扱うことができます。
本文 あとがきより 抜粋

「こんな日本でよかったね」は、内田樹さんが書いているブログを本にまとめたものである。
第一章 制度の起源に向かって—言語、親族、儀礼、贈与
第二章 ニッポン精神分析―平和と安全の国ゆえの精神病理
第三章 生き延びる力―コミュニケーションの感度
第四章 日本辺境論―これが日本の生きる道?
それぞれのテーマに添った内容のブログを構成させたものである。

歯切れのよい言葉の使い方で、思わずくすっと笑ってしまうユーモア感覚、時には辛口?な内容もある。
決して易しい文体ではないが、読むと《そうかこういう考えもあるよね》と、うなずくところも多々ある。

構造主義というのは一九五〇-六〇年代フランスを発信源としたいくつかの学術分野(クロード・レヴィ=ストロースの構造人類学、ロラン・バルトの記号論、ミシェル・フーコーの社会史、ジャック・ラカンの精神分析など)に共通していた、ある種の知的な「構え」か。一言で言うと、「自分の判断の客観性を過大評価しない」という態度です。言い換えると「自分の眼にはウロコが入っているということをいつも勘定に入れて、『自分の眼に見えるもの』について語る」ということです。
本文 あとがきより 抜粋

(J)

「こんな日本でよかったね 構造主義的日本論」