林 總 Hayashi Atsumu
公認会計士、税理士、LEC東京リーガルマインド大学大学院教授(管理会計事例)、(株)林總アソシエイツ代表取締役。
74年中央大学商学部会計科卒業。
経営コンサルティング、一般会計および管理会計システムの設計・導入指導、講演活動などを行っている。
主な著書に、「経営コンサルタントという仕事』『よくわかるキャッシュフロー経営』『わかる!管理会計』『やさしくわかるABC/ABM』などがある。

矢吹由紀は、大学卒業と同時に、父、矢吹源蔵が経営するアパレル会社「ハンナ」に入社した。
入社して5年、デザイナーとしてパリやミラノのファッションショーや展示会、そして有名ブランドショップを見て回ってきた。
由紀は、この仕事が天職だと思っていた。
ところが、父源蔵がゴルフの最中に急逝し、父の遺言通りに株主総会で新社長に選任される。
年商100億円の「ハンナ」を相続し、代表取締役に就任したのだった。
由紀にとっては、迷惑な話だった。
『私に社長が務まるはずがない』と心底思った。
その上、ハンナのメインバンクの支店長の高田五郎がやってきて、ここ数年のハンナの業績は悪くなる一方で、リストラを実行するように迫り、融資にも応じられないことを告げた。
会社の役員に相談したが、誰もがそっけなかった。
何とかしなければと思いながらもどうすることもできない。
革張りの椅子に座って、書類に判子を押すだけの日々が1カ月ほど続いた。

そんな時、母親の里美から、公認会計士の資格を持ち、上場会社の社長もしていて、今は大学院で会計を教えている人がいることを知る。
早速、由紀は、その人物・安曇教授にコンサルティングを頼むことになった。
条件は3つ。
レクチャーは月一度で、教えたことは必ずその月に実行することと、美味しい食事をしながら行うことだった。
報酬は一年後に由紀が払いたいと思う金額とすることだった。

安曇のレクチャーは、銀座のレストランから始まる。
バランスシートの書き方や見方、経営指標としてのバランスシートの話。
キャッシュフローや経営サイクル限界利益率、株主価値、粉飾決算など、経理と経営の基礎をきちんと説明し、理解していることを確かめ、由紀はそのことを実行する。
美味しいご馳走とワインに舌鼓を打ちながら、由紀は安曇からレクチャーされたことを確実に着々とこなしていきながら会社経営を学ぶ。

寿司屋の大トロとこはだは、どちらが儲かるか。
また、餃子屋とフレンチレストランでは、どちらが儲かるか。
本文での説明は、経営に素人にもわかりやすい内容だ。
一年後の成果は、お分かりだと思う。
由紀は、父のずさんともいえる経営状態から、経営を無事に軌道に乗せることができた。
問題は、まだまだ山積みだが、由紀は、『なんとかできる』という思いと、安住教授からの経営に必要な知識や会社運営の合理的な考え方を学ぶことができたようだ。

やれやれだ。

(J)

「餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?」