村上 春樹 Murakami Haruki
1949(昭和24)年、京都生まれ。
早稲田大学第一文学部卒業。
’79年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に、『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、『ノルウェイの森』、『国境の南、太陽の西』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『IQ84』(毎日出版文化賞)、『騎士団長殺し』がある。
『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』などの短編集、エッセイ集、紀行文、翻訳書など著書多数。
海外での文学賞受賞も多く、2006(平成18)年フランス・カフカ賞、フランク・オコナ―国際短編賞、’69年エルサレム賞、’11年カタルーニャ国際賞、’16年ハンス・クリスチャン・アンデルセン文学賞を受賞。

私は、画家であったが、好きな絵を描くだけでは、生活はできなかった。
収入を得るために、注文を受けて肖像画を描き、一日三度の食事と安いワインを飼ってアパートの家賃を支払い、たまに映画を見に行く程度のつつましい生活をしていた。
結婚して、妻とそれなりの生活をしていたと思っていたが、彼女から突然離婚の話が出る。
動揺しながら家を出て、北に向かってあてもなく車を走らせ、数か月旅をして過ごす。

その年の五月から翌年の初めにかけて、小田原郊外の狭い谷間の入り口近くの山の上にある家で、一人で住むことになった
その家は、大学時代からの友人である雨田政彦の父で、有名な日本画家である雨田具彦画伯の家だった。
現在92歳のなる雨田画伯は、認知症で、ほとんど何も理解できない状態になっているという。
日用品は、ほとんどそろっているし、行くあてのない今の私には、とても良い条件がそろっていた。
山を下りて、生活のために週2日ほど絵画教室で絵を教え、残りの時間は自分の制作に当てることができる。
そしてその家で、私は思いもよらない不思議な経験をすることになる。

屋根裏に隠されていた雨田画伯の未発表の作品、真夜中になる鈴の音、白い家に一人で住むハンサムな免色(めんしき)という名前の人物。また、彼に絡む美しい二人の女性だ。
そして、画伯の作品に描かれていて、自らをイデアと名乗り、騎士団長の姿かたちをとる人物の出現など、不思議なことが次々と起こり始める。

「騎士団長殺し」は、第1部 踊れるイデア編・第2部 遷ろうメタファー編で、全4冊の長編小説である。
時間を忘れて読んでしまう本であり、興味深い展開に心は弾む。
村上春樹の世界は、不思議があふれる世界だが、そのどこかに自分に問いかけていく何かがある。

(J)

 

「騎士団長殺し」