西成 活裕 (にしなり・かつひろ)
1967年生まれ。
東京大学先端科学技術研究センター教授。
1995年、東京大学工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了後、ドイツのケルン大学理論物理学研究所などを経て、現在に至る。
専門は数理物理学、渋滞学。
著書の『渋滞学』で講談社科学出版賞、日経BP・BizTeck図書賞を受賞。
他の著書に『無駄学』『「渋滞」の先端は何をしているのか?』『シゴトの渋滞、解消します!』などがある。
趣味はオペラ鑑賞。
自身でもアリアを歌う。

2010年の春、「数学嫌いを吹き飛ばす授業をしてほしい」というオファ―があり、都立三田高校の12名の生徒と共に、実際にそれができるのかという挑戦に挑む。
数学が嫌いと言う人は、かなりいる。
そういう人でも数学を好きになる可能性はあるし、数学的な議論に楽しく参加できる余地はあるとも思いから実施された。
現実社会に飛び出して「血の通った数学」を4回にわたり授業をしたその記録集でもある。

様々な現実的な問題の解決策を議論する。
心理的なものもあるし、筆者の専門の渋滞に関するものもあった。

そして、4日間の授業の最後に取り上げられた問題解決は、3万人が並ぶ、東京マラソンのスタート地点で、できるだけ早く全員がスタートするのは、どうしたらいいのか、と言う問題だった。
スタート地点の現状は、
1.各自過去のベストタイム、または予想されるタイム順に10ぐらいのブロックに分けている。
2.スタートラインから最後尾まで、約900メートルの長さになっている。
3.最後尾のランナーがスタートラインを超えるまで、約20分かかる。

スタートまでに20分もかかるって、早く走りたくうずうずするかも・・・。
全体を10ブロックに分けてもだいたい1ブロックに3000人いることになる。

火事現場などでもそうらしいが、家事に気がつき、早く逃げようと焦り、出口に人々が集まり、密集すると、逃げるのに余計に時間がかかるという。
適度な人口密度は、動きを早くするという。
この人口密度と人の速度から、改善できるところはあるか、また、できるならどんな方法があるかを探る。
中学校で習った一次関数などや、「膨張波」と呼ばれる、「前が空いた」と言う情報が次々と行列のうしろに伝わることを、ある種の波と考え、その伝わる速度を考える。
など、さまざまな数学的思考と現実的解決策を探る。

確かに面白い。
心の問題も数字で考えるなんて、発想が面白い。
数学の限界も踏まえて、自由な発想や、飛躍的な思考の柔軟性を大切にした思考は、引き込まれていくような吸引力や果てしなく広がる想像力がある。
学校で習う数学の制限を超えて、楽しむ数学は興味深いものがあった。

(J)

「とんでもなく役に立つ数学」