2004年 ヴェネティア国際映画祭 金獅子賞 ノミネート作品
ノラ・コトレルは35歳、半年前から画廊で働いている。
仕事も順調だし、実業家ジャン・ジャックからプロポーズされていて、
結婚するつもりだ。
ノラには10歳になる息子エリアスがいる。
エリアスの父ピエールは、エリアスが生まれる前に死んだ。
一年前に二人目の夫イスマエルとも離婚した。
父親は、物書きでもあり、ギリシア語も教えている。
厳格で厳しい父だ。
三度目のジャックとの結婚には慎重だ。
何せ今まで二度も結婚している。
息子を父に預けているノラは、息子や父親に会うためにパリを離れる。
息子の顔を見てほっとし元気な姿に安心もする。
しかし、父親から身体の具合が悪くなっていることを聞かされる。
病院に行って検査するが、末期のがんで、内臓中に転移していることを聞かされる。
父の命もあとわずか。
妹のクロエに知らせないといけない。
父親の死を廻り、思い出されるピエールの死の思い出や、ノラの周りを行き過ぎていく男たちを、回想やエピソードを交えて映画は進む。
父親のノラに残されたメッセージには、思いもよらぬ言葉が書かれていた。
ノラに対する怒りと憎しみの言葉は、喪失で打ちのめされているノラの心に、大きな衝撃を与える。
自分はそんな人間なのか。
淡々と描かれる話の中に、人間の真摯な思いが描かれる。
二度目の夫イスマエルの精神病院への入院に、二度と出てくるなと言い放つノラと、その夫を思うノラの姿は、愛と憎しみ、思慕と反発の、表裏一体の感情を見せる。
死者たちとの語らいが、映画に深みを与える。
二度と解けぬ誤解を胸にそれでも生きていく強さを、さり気なく描く映画だった。
(J)