島本 理生(しまもと・りお)
1983年東京都生まれ。
98年「ヨル」で『鳩よ!』掌編小説コンクール年間MVPを獲得。
2003年「リトル・バイ・リトル」04年「生まれる森」06年「大きな熊が来る前に、おやすみ。」15年「夏の裁断」がそれぞれ芥川賞候補に。
11年『アンダスタンド・メイビー』が直木賞候補のなるなど、ジャンルの枠を超えて注目される。
03年『リトル・バイ・リトル』で野間文芸新人賞、15年『Red』で第21回島清恋愛文学賞、18年『ファーストラブ』で第159回直木賞受賞。
著書に『ナラタージュ』『あられもない祈り』『匿名者のためのスピカ』『イノセント』『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』『あなたの愛人の名前は』『夜はおしまい』など多数。

父親の殺害容疑で逮捕され、「美人すぎる殺人者」、また、アナウンサー志望として大きな話題になっている、女子大学生聖山環菜は、殺人容疑を認めていた。
環菜は、22歳だった。
被害者である環菜の父親・那雄人は、画家だった。
事件当日、環菜は都内でキー局の二次面接を受けたが、具合が悪くなり途中で辞退した。
数時間後には、父親が講師を務める二子玉川の美術学校をを訪れ、女子トイレに呼び出した父親の胸を包丁で刺した。

臨床心理士の真壁由紀は、環菜のノンフィクションの執筆を依頼されていた。
本の執筆にためらいがありながらも、由紀は拘置所で環菜の話を聞くことになる。
「私が悪かったから」「仕方がなかった」と繰り返す環菜の手首には、無数の自傷があった。
環菜の国選弁護士は、由紀の義弟である庵野迦葉である。
迦葉は、由紀の大学の同級生でもあった。
由紀と迦葉は、この殺人事件をめぐってこの少女の過去を探っていくことになる。

第159回直木賞受賞を受賞している作品である「ファーストラブ」は、隠された過去を探るうちに思うがけない物語の展開を見せることになる。
その息もつかせぬ展開は、どんどんと話の中へと引き込ませていく迫力がある。

昨今、マスコミをにぎわせている虐待のあり方は、悲しく・辛い出来事でもある。
が、一方で人として、他者の痛みに関心を向け、自身の日常を振り返る興味深い出来事でもある。
また、ひょっとしたら、思いのほか、身近な出来事なのかもしれないということを本書は語っているのだろうか。

(J)

 

「ファーストラブ」