岡田 尊司 Okada Takashi
1960年香川県生まれ。
精神科医、作家。
東京大学文学部哲学科中退・京都大学医学部卒、同大学院医学研究科修了。
医学博士。
京都大学高次脳科学講座神経生物学教室、脳病態生理学講座精神医学教室を経て、現在、京都医療少年院勤務。
山形大学客員教授。
『人格障害の時代』『悲しみの子どもたち』『誇大自己症候群』『脳内汚染』『アスペルガー症候群』『境界性パーソナリティ障害』『うつと気分障害』『パーソナリティ障害』『子どもの「心の病」を知る』など著書多数。

 本来、母親からの愛情と保護を受けて育つはずの子どもが、それを十分受けられないだけでなく、不安定で明日をも知れない母親の存在が、子どもの心に重石となってのしかかる。それも、母親の怠慢や過失によってではなく、母親自身にもどうすることもできない疾患や障害によって、そうなってしまう。こうした悲劇的な状況が、今もいたるところで起きている。
これまで、医学や臨床科学は、母親の病気と、子どもの心理、行動、発達の問題を、別々のものとして扱うことが普通だった。それぞれに専門家がいて、それぞれのことで頭が一杯だった。母親の病気を扱う専門家は、病気の治療に全神経を奪われており、子どもへの影響を考えて何らかの配慮を行うことは稀である。子どもの専門家は、親の心身の状態が子どもに及ぼす影響をある程度考慮に入れるだろうが、あくまで、いくつかある要因の一つとしてである。母親の病気の影響というものは、意外なほど軽視されてきたのである。
本文 抜粋

シック・マザーとは、子どもへの関心や愛情・発達に影響をし得るあらゆる疾患や障害を持つ母親のことである。

その代表は、うつ病やうつ状態である。
うつ状態を引き起こす問題は、多岐にわたり、うつ病以外にも、適応障害、双極性障害(躁うつ病)、境界性パーソナリティ障害などのパーソナリティ障害、アルコール・薬物依存症、不安障害、ガンや慢性身体疾患などがある。
子どもに悪影響が出やすいものとしては、うつ状態とならんで、精神的な混乱や不安定な状態を伴いやすい、統合失調症などの精神病や境界性パーソナリティ、アルコール・薬物依存症がある。

精神的なものは、本人にも自覚されにくく、自己愛性パーソナリティ障害や強迫性パーソナリティ障害などは、周囲にもわかりにくい場合が多くある。
独善的かつ支配的であったり、共感性に乏しかったりすることで、養育態度にもそうした傾向が見られやすいという。
そういう場合、子どもとの愛着に問題が生じやすく、子育てが偏ったものになる傾向があるという。

また、母親の不調が、子供の成長のどの時期かによって、子どもに与える影響は違う。
幼い頃に、母親が不調になったり、入院などで不在の場合、また、母親の不調が長いほど、子どもに与える影響は、より深刻なものとなる。

心理学は、家族内の機能不全として、家族が、お互いに影響を与える存在として取り上げてきた。
家族が本書は、母親の疾患が子どもに与える影響を、すべてではないが、それぞれの疾患別に子どもに与える影響が書かれている。
育児は、メンタル面で健康な親でも、精神的にはかなり負担になることも多い。
メンタル面で不調を抱える母親が、自身の症状に悩まされながら子育てをするのは、かなりストレスがかかることであろう。
まして、子どもにとって母親の不調は、生活全般に及ぶ傾向があり、精神面での影響は計り知れないものがある。
母親の治療がより重要なことだとしながらも、その母親の育てられた子どもへの理解を促すことも、また重要なことであろう。

(J)

 

「シック・マザー」