福澤 徹三 ふくざわ てつぞう
1962年福岡県生まれ。
デザイナー、コピーライター、専門学校講師を経て作家活動に入る。
2000年『幻日』でデビュー。
08年『すじぼり』で第10回大藪晴彦賞を受賞。
その他の著書に『廃屋の幽霊』『嗤う男』『灰色の犬』『東京難民』『Iターン』『侠飯』など多数。
追われた元ヤミ金取り立ての男が辿り着いたのは、東京から電車で、わずか2時間ほどの田舎町だった。
手元には持ち逃げした三千万円がある。
誰でも思いつくようなドヤ街はまっさきに調べられるし、田舎だとよそ者は眼につく。
しかし、追っ手がその筋の場合は、田舎に逃げたほうがいい。
あの連中は、夜の都市なら警察よりも鼻がきくが、シノギのない田舎には寄りつかない。
その田舎町は、「小鹿商店街」という名前の潰れかけたシャッター商店街だ。
ロータリーのむこうには、ちっぽけな映画館と商店街がある。
映画館はずいぶん前に潰れたようだし、商店街も負けず劣らず古ぼけていて、アーケードの鉄骨は真っ赤に錆びていた。
名前は、何となく語呂がいいので、中学のときの同級生の影山清と使うつもりだ。
肩書きは、イベント会社の社長だ。
名刺も作ってある。
とにかく、腹ごしらえをと、商店街の中の「レストラン喫茶 ニューかさご」でラーメンを頼む。
出てきたのは、何とインスタントラーメンで、しかも値段は4千円だった。
ぼったくりだ、と思いながらもラーメンを食べる。
男は、取り立ての失敗で、あやうく命を落としかけた。
持ち逃げした三千万円は、アタッシュケースの中にある。
その夜は、「ニューかさご」に来た商店会の青年部の賢吾や亜弥の二人と話して、カラオケをして、お酒を飲ん堕ことは覚えているが、その後のことは、何も覚えていない。
気がついたら、「ホテル マンハッタン」だった。
次の日、賢吾と亜弥の二人から、町おこしを頼まれ、会議に出席したものの、会議で出されたお酒を飲んでからの記憶がない。
気がついたら、また、「ホテル マンハッタン」だった。
しかも、アタッシュケースがなくなっている。
きっと、商店街の誰かに盗まれたに違いない。
犯人を突き止めて、早くこの町から出て行こう。
カネなし、知恵なし、ヤル気なし。
名刺の肩書きを信じて男に町おこしの協力を期待する。
しかも、年寄りばかりの目立つ、さびれた商店街の町おこしだ。
町おこしに協力することになった男は、ヤクザの大親分に助けを求めるが、事態はますますややこしいことになっていく。
ブラックコメディ溢れる本書は、息をするように嘘をつく影山清と名乗る男の物語だ。
酒の不始末か、どれとも盗まれたのか。
失くしたアタッシュケースを取りもどすために、アイデアも何もない町おこしに関わるが、何故か不思議にも色々なことが起こる。
そして、一匹3000万はすると言われる野や猫の三毛猫の正体はいかに。
最後まで結末が読めない、そんなお腹を抱えて、笑いをこらえての本だった。
(J)