内田 樹 Uchida Tatsuru
1950年東京生まれ。
東京大学文学部仏文科卒業。
東京都立大学人文科学研究科博士課程中退。
元神戸女学院大学文学部教授。
専門はフランス現代思想、武道論、教育学。
多田塾甲南合気会師範。
著書に『先生はえらい』『大人は愉しい』『おせっかい教育論』『街場のマンガ論』『下流志向』『死と身体』など多数。
『日本辺境論』で新書大賞2010を受賞。

「いのちがけ」の事態を想定し、高度な殺傷術として洗練されてきた日本の武道は、幕末以来、さまざまな歴史的淘汰にさらされ、それに耐え、そのつど「変身」を遂げつつ生き延びてきた。
「心身の感知能力を高め、潜在可能性を開花させるための技法体系」である武道は、さまざまな叡智が満ちているという。
戦後、武道は、生き延びるために『スポーツ』へと形を変えた。
「武道が」想定しているのは危機的状況での、自分の生きる知恵と力だという。
「競技」が想定しているのは、アリーナの中の「試合」で、武道が想定しているのは、そのアリーナにいきなりゴジラがやってきて、観客席が踏み崩されるような状況をどう生き延びるかという問題だという。(本文参照)
競技に勝つためには「ライバルよりも高い運動能力を発揮する」という正解一つだが、武道的な問いには単一の正解がないという。

「生きる知恵と力」とは「生き延びるチャンスを増大させるもの」をいかに多くすることができるかという問いでしか考量できない。
他の人には、「そんなことをしても何の役にも立たないこと」「何の意味もないこと」が自分には役に立ち、意味があると思えることである。
目の前の世界が自分に固有の仕方で経験されること。
他の誰によっても感知されないような意味を世界から引き出すこと。
疎遠な世界を親しみに満ちた世界に書き換えることだと書かれている。
(本文参照)

ブログに書かれたものや、さまざまな活字媒体に寄稿したものの中から、武道に関するものをとりあげた一冊の本だ。
武道とは何か?
武道的心得とは。
武道の心・技・体。
武士のエートス。
二十世紀的海国共談。
と内容は盛りだくさんで、しかも武道的。

ユーモア的?センスの光る内田さんの文章を、時には微笑みながら、また、時には唸りながら、楽しみながらも、考えさせられる本だった。

(J)

「武道的思考」