冲方 丁 うぶかた とう
1977年岐阜県生まれ。
’96年、大学在学中に『黒い季節』で第1回スニーカー大賞金賞を受賞しデビュー。
ゲーム、映像、コミック、小説とメディアを横断した執筆活動を精力的に行う。
2003年、『マルドゥック・スクランブル』で第24回日本SF大賞を受賞。
’09年、初の時代小説『天地明察』を刊行、同書は第31回吉川英治文学新人賞、第7回本屋大賞、第7回北東文芸賞、第4回舟橋聖一文学賞、2011年大学読書大賞を受賞した。

徳川四代将軍家綱の時代、安井、本因坊、林、井上という四家が、碁打ち衆として江戸城への登城を許されていた。
碁打ちの名門安井家に生まれて、14歳で父が亡くなったあと、父の名を継いで、安井算哲は、別名に渋川晴海という名を名のっていた。
晴海が生まれた時、彼の兄にあたる養子がすでにいた。
次男として育った彼は、囲碁よりも算術に興味を抱いて、いつもそろばんを持ち歩いていたし、その算術から天にある星の運行にも興味を抱いていた。
やがて、その興味は、時の暦をより新しく、さらにより正確なものにするための大計画へと変わっていく。

算術の絵馬から、引き寄せられ、私塾を任されている礒村や、後に晴海の後妻となる、娘のえん。
また、その人たちとの出会いから得ていく、算術の天才といわれた関孝和との友情。
北極出地の星の観察隊で得た、建部や伊藤との触れ合いなど、後々大和暦を完成させていくための貴重な人たちとの様々な触れ合いや忘れ得ぬ約束。
嫁となるいとの思い出など、江戸という時代を、算術と暦に人生を賭けた渋川晴海の物語だ。
名君といわれ、渋川晴海の暦を完成させるとこに、尽力をつくす保科正之、水戸光圀などの個性が光る人々もいる。

挫折あり、恋あり、喜びありの、人生20年以上の苦闘を、日本の変革を遂げるほどの大事業となった改暦の歴史と主に描く。
一人の男の苦悩や、それを成し遂げるために関わり合う人々の心根を、さらっとした口調でありながらも、心に入り込むような文体で、興味しんしんに読める本だった。

(J)

 

「天地明察」