森本あんり Morimoto Anri
1956年、神奈川県生まれ。
国際基督教大学(ICU)学務副学長、同教授(哲学・宗教学)。
プリンストン神学大学客員教授、バークレー連合神学大学客員教授を経て、2012年より現職。
著書に『反知性主義-アメリカが生んだ「熱病」の正体』など。

異なる文化圏の人たちの価値観や行動原理を、歴史や哲学、宗教などのリベラルアーツを学ぶことことや、きちんと把握することは、グローバルな現代を生きる人には、必要な時代となりつつある。
アメリカという国を最深部で動かす宗教という原理は、ヨーロッパとはどう異なるのだろうか。
そしてそれは歴史的にどう形成されたか。
宗教的な視点に立って、アメリカという国の本質に迫る本である。

アメリカという国を外側から観ると、道徳主義と快楽主義、高度な知性と宗教的原理主義、政治と選挙における熱狂と「おおきな政府」への不信と反感という矛盾が同居している。
建国以来、「負ける」ことを知らないアメリカは、意志の力で何ごとも成すことができるという「富と成功」の福音をもつ。
その宗教性は、現世的利益との結びつきをもたらし、自身の幸福は、その「富と成功」をもつことが正しさからだと解釈するという。

「反知性主義」は、知性そのものを蔑視するものではない。
本来の反知性主義とは、知性と権力の結びつきが固定化することへの反発だという。
例えば、ハーバード大学出身者のみが重用される「ハーバード主義」へのという反発から生じる。
もともと、権力と知性は結びつきやすい。
その固定しやすい結びつきに対する反発であり、階級の固定しやすさを変化させる動きでもある。

本書は、アメリカを「富と成功」と「反知性主義」という二つの伝統で解説する。
あまりにも当たり前になっているものは、反対に気がつきにくいことが多い。
宗教国家としてのアメリカという文脈からトランプ大統領の言動をみると、生まれるべくして生まれたアメリカ大統領としての彼の姿が見える。
興味深く、また『成程』と頷ける内容の多々ある本だった。

(J)

 

「宗教国家アメリカのふしぎな論理」