釘原 直樹 (くぎはら なおき)
大阪大学大学院人間科学家研究科教授
主要著書・論文:『人はなぜ集団になると怠けるのか―「社会的手抜き」の心理学』『グループダイナミックスー集団と群衆の心理』『テロリズムを理解する—社会心理学からのアプローチ』
阿形 亜子 (あがた あこ)
大阪大学大学院人間科学研究科助教
主要著書・論文:「集団成績フィードバックが社会的補償に及ぼす影響」「向社会的行動における競争的利他主義の検討」「相互独立自己観・協調的自己観が社会的手抜きに及ぼす影響」「対人社会心理学研究」
吉川肇子(きっかわ としこ)
慶應義塾大学商学部教授
主要著書・論文:「大学生のリスク・マネジメント」『リスク・コミュニケーション・トレーニング―ゲーミングによる体験型研修のススメ』『クロスロード・ネクスト—続・ゲームに学ぶリスク・コミュニケーション』
岡本 真一郎 (おかもと しんいちろう)
愛知学院大学心身科学部教授
主要著書・論文:『言語の社会心理学—伝えたいことは伝わるのか』『言葉の社会心理学[第4版]』
村上 幸史 (むらかみ こうし)
神戸山手大学現代社会部准教授
主要著書・論文:「『幸運の相対性仮説』とその検証」「『幸福』な事象は連続して起こるのか?-『運資源ビリーフ』の観点から」「お守りから見る親子の贈与関係」
植村 善太郎 (うえむら ぜんたろう)
福岡教育大学教育学部准教授
主要著書・論文:「仮説的有能感の心理学—他人を見下す若者を検証する』「紹介者の存在が新入社員の受容に及ぼす影響-紹介者がただ存在することが集団構造動揺不安と新入成員に対する信頼に及ぼす効果」

JR福知山線脱線事故、O157、新型インフルエンザ、口蹄疫、東日本大震災など、大きな事故や災害があった際に、特定の人々が「やり玉」に挙げら、強い非難を浴びる。
本書は、その「やり玉」を「スケープゴーディング」と捉え、スケープゴーディングの言葉の語源や意味、心理学的定義、また、報道(メディア)、自尊感情との関連を、実証研究などを踏まえて紹介している。

スケープゴーディングは、「個人や集団が抱えるさまざまな問題」「内在する不安、攻撃衝動、性的衝動」が動機要因である。
さらに、「欲求不満の高まりと不満充足の挫折」「スケープゴーディングに対する組織的行動」「スケープゴーディングの有効性に関する知覚」「ターゲットに対するステレオタイプ」「スケープゴーディングをする側のパーソナリティ」は、促進要因として働くという。

スケープゴーディングの動機に関しては、精神分析理論と欲求不満攻撃理論の二つの理論がある。
精神分析では、スケープゴーディングは自分の中にある邪悪な思考や感情(不安、罪悪感、性的欲望、低能力、劣等感)を抑圧し、またそれを他者に投影することによって、解消しようとする無意識の試みであるとする。
攻撃は自分自身の非道徳的欲求の他者に対する投影が背後にある。
精神分析的スケープゴーディング説によると、虞犯者(犯罪的傾向を持つ人)は犯罪者に対してより厳しい罰を与えるとする。
一方、欲求不満攻撃理論も精神分析理論と同様にさまざまな欲求が行動の形で発散されるとする。
異なるのは、攻撃を内的衝動から引き起こされたものではなく、目標追及行動を妨害するような環境(外的条件)に対する反応としている。外的条件によって引き起こされた欲求不満はそれを引き起こした対象に向けることによって解消される。
ただし、精神分析理論と同様に欲求不満を引き起こした対象が強力で報復される可能性のある場合、攻撃は無実の対象に向けられると考えられる。

また、スケープゴーディングには、原因・責任帰属、スティグマ、風評、記憶、マスメディアの報道による取り上げられ方や言語表現の微妙なニュアンス、同調効果など、さまざまなことが関与するという。

社会心理学のいろいろな実験を紹介し、その実験結果から見えてくるものを、スケープゴーディングという角度から分析研究していて興味深い。
心の現象を、スケープゴーディングという切り口でみると、欲求不満やある意味では自分を守るやり方が見えてきて、〈成程〉と考え込んでしまった。

(J)

 

「スケープゴーティング」