認知心理学  cognitive psychology

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心的表象とは一体何であろうか。認知心理学では人間を情報処理システムとみなしている。そこでは情報が取り込まれ、処理されて、また取り出されるということが行われている。そうした情報の表現形式のことを、表象(representation)と呼ぶ。表象の原語のrepresentationという言葉は、「ある事柄を別のもので代表させて示すこと」という意味を持っている。
例えば、実際の猫の変わりに「猫」という言葉(記号)を使って表わすとすれば、「猫」という記号が実際の猫の「表象」となる。さて、それでは私たちが猫について考えたり、猫を思い浮かべたりしているとき、私たちの頭の中ではそれがどのように表象されているのであろうか。素朴に考えると「猫」という言葉で表象化されているようであるが、頭の中に字は書けないし「ネコ」という音が録音されているわけでもない。また、猫の絵が頭の中に入っているわけでもない。しかし何らかの形式で「頭の中の記号」になっているはずである。そこでこうした「頭の中の記号」を心的表象と呼ぶことにする。心的表象がどのようなものであるかは、認知心理学において研究すべき研究テーマであるが、そうした心理的表象というものがそもそも存在するのだという大前提を認めた上で研究を進めようとするのが、認知心理学なのである。
ryouhou7_2長期記憶には、われわれの認知をガイドするという重要な役割がある。心理学では、長期記憶をこのような機能と結びつけてとらえる際に図式schemaという概念を用いてきた。ここで図式とは、環境との相互交渉のために(主体自身も含む)環境世界の表象化に作用する既有の知識の枠組みを意味する。過去の経験が図式を構成し、その図式がその後の入力情報の処理に影響を与える。図式概念は、1923年にバートレットBartlett,F.C.によって初めて心理学に導入された。バートレットは図式を、認知入力に関するモデルを自動的に形成する過程と考えた。それらは新しい事実や概念を取り込むための心的枠組みである。すなわち図式は、われわれが扱う入力情報に対する抽象的な構造化された参照データとして機能する。そして入力情報を既成の知識と対応づけ、一貫性のある意味をもった表象に構成することで、新しい情報を理解を可能にする。
鬱的傾向のある人たちは、幼児期より否定的見方、つまり歪んだスキーマをもっており、それがストレスによって発動され、それが具体的には否定的自動思考negative automaticthoughtsとなって日常生活に機能し、鬱的状態が引き起こされるという。例えば、「自分は完全な状態で仕事をしなければ、人に好かれない」という否定的自動思考があれば、仕事のつまずきによって容易に否定的見方に取り込まれてしまう。
ryouhou7_1認知の3対象cognitive triad は、自己(例えば、「私は役立たずだ」)、現在の体験(例えば、「私は何をやってもうまくいかない」)、未来(例えば、「私はこれからも決してよくならない」)のそれぞれの自動思考に否定的解釈がなされ、結果として鬱的状態にいたると考えたのである。
認知療法の目標というものはまずこの否定的自動思考を心理療法のプロセスで患者に意識させるということ、そして二番目に認知の歪みを修正することを通じて、人格や行動に健全な変化
を起こすということである。

心理療法7