古賀 史健 (こが・ふみたけ)

ライター、1973年福岡県生まれ。1998年、出版社勤務を経て独立。主な著書に『取材・執筆・推敲』『20歳の自分に受けさせたい文章講義』のほか、世界40以上の国と地域、言葉で翻訳され世界的ベストセラーとなった『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(岸見一郎共著)、糸井重里氏の半生を綴った『古賀史健がまとめた糸井重里のこと』(糸井重里共著)などがある。ビジネス書ライターの地位向上に大きく寄与したとして「ビジネス書大賞・審査賞特別賞』受賞。2015、株式会社バトンズ設立。2021年、batons writing college(バトンズの学校)開校。

うみのなか中学校には、タコはたこじろうしかいない。
タイやクラゲやタツノオトシゴの子だっているけど、タコはひとりだ。

たこじろうは、授業中、先生に当てられると顔が赤くなる。
まるでゆでだこだ。
クラスの皆がその様子を見て笑いながら冷やかす。
こうなると、口の端から墨がにじみ出てしまう。
ますます顔を赤くして、笑いがおさまるのを待つ。
タコも自分も、大嫌いだ。
帰宅組のウツボリくんとアナゴウくんも友だちのふりをしているが、本当に友達なのかよくわからない。

今年の秋に開かれる体育祭は、うみのなか中学校最大のイベントだ。
そんな一大イベントで、全生徒代表による選手宣誓に選ばれたたこじろう君の心は複雑だ。
翌日、家を出て、学校に行かずに市民公園へ行く。
そこでヤドカリのおじさんに会う。
やどかりのおじさんは、そんなたこじろう君の話をじっくりと聞いてくれた。
少しホッとする。
そして、日記を書くことを薦める。
やがて、おじさんとの出会いは、たこじろう君の心にいろんな形で変化をもたらしていくようになっていく。

思っていることをうまく言えない。
そんなあなたへ語りかけるように本章は進んで行く。
相手をそして自分を、理解しようとすることの大切さも含めて、やさしい語りかけや思いは、いつしか自分や相手の心を開かせていくようになる。

無理なく心に染み入るように言葉が入ってくる心地よさは、ストーリー全体・言葉の不思議な魅力を遺憾なく感じさせる作品になっている。
淋しさは、無くなることはなくても、持ち続けることはできる。
そんな勇気をくれる本だった。

(J)

 

「さみしい夜にはペンを持て」