第59回ベルリン国際映画祭
金熊受賞作品
アカデミー賞 外国部門 ノミネート作品
ファウスタは極度の恐怖症。
一人で外にも出られない。
ファウスタの母親はペルー内戦の時にレイプされた。
その時に母親のお腹にいたファウスタは、母親のその恐怖を貰い「恐乳症」という恐怖症になったと、いっしょに暮らす叔父も信じている。
膣にジャガイモを詰めて、まさかの時にも用心している。
恐怖や悲しみをファウスタは歌にする。
母親が死んだ。
悲しみに暮れる彼女だったが、故郷の墓に母親を葬るために、働きに行かざるを得なくなる。
80年から90年代のペルー内戦は、色々な心的外傷を残した。
苦しみを与えられた母親は、これほど苦しむなら死を与えてほしかったという。
その母親の傍で暮らいたファウスタ。
彼女は、お金持ちの音楽家の家で使用人として働くようになる。
働きながら彼女は歌う。
心の悲しみを歌う。
雇い主の音楽家はスランプに陥っていた。
イライラしながらもどうしても曲がかけない。
その彼女にファウスタの歌が聞こえる。
真珠の珠を交換条件に彼女に歌うようにと音楽家は言う。
誰にも心を開かないファウスタだったが、少しづつ人と関わり始める。
庭師と話し、歌いながら…。
それでも恐怖は無くならない。
身体の弱いファウスタは、時々倒れる。
医者は色々な医学的な助言を与えるが、自分の病気は「恐乳病」だと信じる彼女には医学は役に立たない。
霊の呪いを信じる彼女は、今日も塀つたいに歩く。
そうすれば、霊に取りつかれることはないという。
ファウスタの歌を曲にした音楽家は、舞台で拍手喝采を浴びる。
美しい旋律はファウスタの心でもあり、歴史でもあった。
ひょっとしたら、音楽家の身勝手さに見える姿もこの環境では普通のことかもしれない。
約束の真珠を貰えぬ怒りと悲しみは、やがてファウスタをある行動へと駆り立てる。
無事に、母親を葬ったファウスタの手元に、一本のジャガイモの苗が届く。
ファウスタから笑みがもれる。
何とも言えない魅力のある映画だ。
一人の女性が少しづつ成長していく。
母親からの言葉を信じながら、自分の力でやり抜いていこうとする姿は、見ている者にドキドキハラハラさせる。
見終わったとき感動が美しい歌と共に心に残る。
そんな美しい映画だった。
(J)