第67回ヴェネティア国際映画祭
銀獅子賞(監督賞)・金オゼッラ賞受賞作品
ハビエルの父親も祖父もピエロだった。
子どもを笑わせるのが仕事。
スペイン内乱に巻き込まれたハビエルの父親は、仕事中ににも拘らず銃を手に取る。
ピエロの恰好のままで、争わなければならなかった。
その父親の近くに居て、多くの悲しみを知りすぎたハビエルは、『泣き虫ピエロ』にしかなれないと父親に言われる。
あるサーカスでピエロになったハビエルは、ナタリアという美しい女性と知り合う。
ナタリアはサーカス団のトップであるセルビオの情婦だった。
子ども好きで人気者のセルビオは、サディストでもあった。
美しいナタリアに心惹かれるハビエルは、〝ナタリアに構うと大変なことになるのでやめておいた方がいい”
という像使いのラシロの忠告も無視して、彼女に誘われるままに出かける。
そして、サディスティックなセックスに狂うセルビオからナタリアを救い出そうとするのだが…。
一見温和で優しい雰囲気のを醸し出すハビエルと、如何にも暴力的で強引なセルビオ。
ハビエルはナタリアを救うためには、どんなこともする決意を固める。
映画は、どんどんと暴力的になっていくハビエルを描く。
動機は人を守るためなのだが、歯止めが利かなくなっていく様子は見ていて恐ろしい。
〝傍にいると心が落ち着く”存在だったハビエルが、〝見ただけでも恐怖を感じざるを得ない”存在として変化していく。
笑いを誘うピエロという者が、一人の女性を巡って気狂い者になっていく。
暴力の果てに、自分で自分を傷つけ獣のようになっていくハビエルは、まるでハビエルそっくりの存在へと変化する。
泣き虫ピエロのハビエルと、怒りのピエロのセルビオの二人は、ボロボロになりながらも闘う。
殺し合い、憎みあい、蔑みあう。
そして、恐怖と共に二人と過ごすナタリアの最後に選んだ道は、争い止める手立てとなった。
(J)