1999年 アメリカ
監督:ハロルド・ライミス
出演:ロバート・デ・ニーロ
ビリー・クリスタル
重要な会合を二週間後に控えたマフィアのボス、ポール・ヴィッティがパニック障害で情緒不安定になる。手下のジェリーの取り持ちで、精神分析医のベン・ソボルの治療をポールは受けることになる。
あれこれ事件も起こる中で治療は進み、ポールは、意外な選択をする決断をする。
コメディで面白く笑える一方、心理療法や日常の人間関係でおきる様々なことが描かれていて、興味深い映画だ。
まず、精神科医ベンとマフィアのボスのポールの初対面の場面。「友達のことで相談に来た」という見え透いた嘘を見抜いたベンを、ポールは「天才だ!名医だ!」と誉めそやす。
ベンは「ノー!ノー!」と半ば困惑した表情で返答し続ける。
過激な「陽性転移」におびえる医者をビリー・クリスタルが好演している。
ポールが父親の死を回想し、再体験する場面。
はじめは「過ぎたこと」と言って体験から距離を取っているポールが、「そのとき何を注文した?お父さんは何を?あなたは何を?」と尋ねるベンに、「ペンネ」「ラヴィオリ」と答えながら、徐々にその時その場に戻り、そのとき感じ残した感情、罪悪感を感じる。
泣き崩れるポール。
敵が襲ってきても、ピストルで抗戦もできない。
そして、しばらく時間が経ち、ようやく落ち着いたポールにベンが「セラピーは終わり」という。(「アンフィニッシュドビシネス」が一つ終わった。)
そして、重要なマフィアの会議の当日。出かける用意をするポールは、テレビのCMをみて、突然泣き出す。
また、新たなワークが始まった模様。
父親と子の絆をうたう証券会社メリル・リンチのCMだ。(今度は悲しみと思慕が出てきたのかな・・・・そう簡単にはアンフィニッシュドビジネスは終わらないようだ・・・)
急きょベンがポールの代理としてマフィアの会議に出席するように呼び出される。
ベンは「だめだ、できない、すぐばれる!」と言って断るが、半ばごり押しでやむなく会議の会場に向かう。
(しかし・・・・本当にいやだったかはあやしいもの。
会場でのマフィアとの挨拶の様—一緒に行った手下のジェリーはそれを評して「やりすぎだ」と言う—会議の席上での態度、発言—-ジェリーを見事に手下扱いしていて平手打ちなどしている—それなりに、それらしく、ベンはマフィアのボスの代理、相談役の役割にはまる。)結局ベンは偽者とばれずにすみ、やがて遅れてポールがその席に現わる。
マフィアのボスとのかかわりの中で、分析医のベンが少しずつ違う顔を見せていく様がコメディータッチで描かれているのも面白い。
人には自分が気づかぬ色々なところが実はあるという。ポールもベンも、似ても似つかぬように見えて、実はとてもよく似たところのある二人だった、のかもしれない。(X)
転移 transference
クライエントの過去の重要な人物との対人関係がセラピストとの関係に移されることである。
過去が現在において無意識的に反復されると言ってもよい。
・・・・転移される内容は、重要な人物に対する情動(愛や憎しみ、羨望など)、葛藤、空想、行動、防衛様式などであり、いずれも幼児的な起源を有している。・・・・
フロイトは転移を、転移される情動の性質と言う観点から、陰性転移と陽性転移に分けた。
陰性転移はもっぱら、セラピストに対する敵対感情からなる。
一方、陽性転移は、
1.意識化しうる親愛感情と
2.無意識の中へと抑圧されている性愛的な感情に分けられる。
後者はいわゆる転移性恋愛である。
・・・・陽性転移の1.は、セラピストに対する信頼感の基盤となるものである。
しかし、2.は、陰性転移と並んで治療上の抵抗となりうる性質を有している。 「カウンセリング辞典」より引用
未完結の体験 unfinished business
精神分析的概念で言うよくあるに近いものであるが、完結していない経験や心残りをさしている。 「心理臨床大事典」より引用
(J)