Kekexili:Mounten patrol
2004年 中国

チベット語で「青い山々」、モンゴル語で「美しい娘」を意味するココシリ。
この映画は、「神が住む山」とも言われるココシリ、そこに生息するチベットカモシカの密猟を阻止すべくパトロールをするマウンテン・パトロールとその取材にやってきた一人の若者の物語である。
そして、現実に起きた真実に基ずくドラマでもある。

海抜5000メートル級の高山地帯に生息するチベットカモシカは、1990年以降密猟により絶滅の危機に見舞われ、100万頭からその1/100の一万頭に激減する。

パトロール隊は、お金も、人材も無く、没収したカモシカの毛皮を売り、かろうじて生活の糧を手に入れる。売ってはならないことを承知しながら、売らなければ生きて皆のことを守れない。
かたや、密猟者側にも、自分たちの生活を守るためにはどうしようもない現実がある。

そして、パトロールする側にも、密猟者にも、猛吹雪・蟻地獄・高山病など、容赦無い自然の営みが襲い掛かる。

チベットの山々は、美しく雄雄しく人々の前に立ちはだかり、画面を見ている私の前にも、その姿を見せる。

チベットは、チベット仏教の地でもある。

曼荼羅(mandala)とは、「仏を出生するもの」であり、マンダ(manda)は、「心髄」を意味し、ら(la)は「所有」を表すとする。これによって、マンダラの意味は、「諸仏を出生する心髄を有するもの」となる。

マンダラ(mandala)というのは、マンダ(manda)はサーラsara[と同じ意味]であって「心髄」とか「界」、または「中心」をいう。ラlaはアーダーナadana[と同じ意味]であって「取ること」とか「持つこと」などをいう。また、周囲が円い城壁の名称もマンダラ(mandala)というから、[チベット語で]「キンコル dkyil hkhor(輪円)」という。
(『二巻本訳語釈』東北No.NO.47347,fol.154,1,4。9世紀初頭)

マンダラは、衆生に信仰心を植え付け、密教の悟りに誘うためでもあった。
その功徳として、マンダラをわずかに見ただけで、その人が輪廻転生によって犯してきた全ての罪を完全に消すことができると強調した。

一般に、マンダラは対照性の強い図形である。
中心を持ち、ふつう、同じ大きさのの四分円に区切られている。同心円(’khor コル) とさらにそれと中心を同じくする正方形(dkyil キル) からできている。確かに、きわめて多くのマンダラが瞑想、可視化、灌頂のためにも用いられている。

心理学のカール・ユングは、宗教性を心理学に取り入れたひとである。
密教にも、興味をひかれたユングは、人の心理に宗教の元型とともに、救世主コンプレックスを、心理療法に取り入れた人でもある。

マンダラの考え方を、箱庭などに取り入れたやり方をしている療法家もいる。

壮絶な自然と神々しいまでの営みを、ココシリという映画は、見せてくれている。
日本の神道にもよく似たこのチベット思想は、日本人の思想のどこかにも通じる何かがあるように思われて仕方ない。

参考図書「ユング 分析心理学」小川捷之 訳
「図説 マンダラの基礎知識」越智淳仁 著
「図説 曼荼羅大全」マルティン・ブラウエン 著
森雅秀 訳

(J)

ココシリとチベット曼荼羅