2008年 ドイツ・イスラエル制作

1961年
テルアビブ郊外の砂漠にある精神病院は、ホロコースト収容所からの生存者で、ユダヤ人専用の病院であった。
アメリカの慈善家レベッカ・サイズリンが作った病院である。

このサイズリン研究所の医学博士ネイサン・グロス博士は、ホロコーストから受けた人々へのセラピーを施し、さまざまな心理的な傷を治し、癒すことを研究していた。

ユダヤ人のアダム・シュタインは、サーカスで働き、また人気のある道化師だった。
家族4人と共に舞台で活躍していたが、家族全員ナチスの収容所に連れていかれる。

家族と引き離されたアダムは、かつての彼を知る総司令クラインと出会う。

楽しみがなく気分の滅入ることの多い日常に、娯楽と慰めを求めていたクラインは、アダムを自分の飼い犬にする。
犬と同じように這って、犬と同じものを食べる。
アダムは終戦までの3年間その生活を強いられるようになる。

アダムには、常識では考えにくい様々な行動などがあった。
犬のような嗅覚を身につけ、遠く離れた匂いを嗅ぎ分ける。
心臓が停止したにも拘らず、復活したり、何かのはずみで出血したりする。

病院のスタッフは、アダムを自由にさせるグロス博士に様々な批判的な意見を言うが博士は取り合おうとはしなかった。

病院でカリスマ的で、絶大な人気を博すアダムは、他の患者のお金で株をしたり、まるで場違いな美人看護師ジーナとの情事を楽しんだりしていた。

人を殺しそうになり、研究所から逃走したアダムだったが、通報で連れ戻されたある日、グロス博士との約束で、研究所には犬を飼わないと約束していたにも拘らず、彼の鼻は犬の匂いを嗅ぎつける。
匂いの元を探すアダムは、獣のように吠えるモノを見つける。

正体を見極めようとして、アダムの前に現れたのは人間の男の子だった。
かれもまた、ホロコーストの生き残りだった。
犬のように四足で歩き吠える。

デイビッドと名付けられたその子どもは、アダムには心を開き慕うようになる。
そして、四足で歩くのを止めるようになり、言葉を話すようになる。
驚きと戸惑いのスタッフやグロス博士。

そんな中で、大量の薬を飲んだアダムは、幻覚を見る。
クラインが炎の中から現れ、『アダムの心の中に今も自分は生きている』と語る。
その言葉を聞いたアダムの取った行動は…。

信じがたいホロコーストの惨劇は、取り返しのつかない程の心の傷を残す。

生き残った人々は、神を慕い神に怒りを向ける。
どれほど語ろうが、癒えぬ心の傷の深さを、一風変わった手法で描く。

人間でありながら犬として生きる。
生き残るために、命を永らえるためにと、そう言われて納得する。

悲しく儚く、そして希望の映画でもある。

(J)

「囚われのサーカス」