2011年 トルコ/ボスニア・ヘルツェゴビナ制作
カンヌ国際映画祭審査員フランプリ 受賞作品

トルコ・アナトリア地方の夜の闇の中を、3台の車が走る。

車に中には、殺人容疑で逮捕された男が二人、それに警察官・検事・検死のための医師・軍警察官が乗っている。
彼らは容疑者の自供で埋めた遺体を探している。

夜の闇の世界をヘッドライトが照らす。
行けども行けども似たような景色が続く。
殺人容疑者自身も自分が何処に埋めたかも定かではない。
〝確か丸い形の木のあるところ”という話を信じて、ただひたすら探すが見つからない。

検事はイライラしている。
明日の仕事の予定では、アンカラに行かなくてはいけない。
検事には力がある。
警察官が必死で捜査した事件でもすべて彼の手柄になる。

あちこち廻るが死体は見つからない。

そんな時、検察官は検死医に『以前、死を予告してその通りになった友人の妻がいた』と語る。
検死医は、その話に興味をもつ。
死因は心臓発作らしい。
どこにも不審なところがなく誰もが疑わなかった。
検死医は、『死体解剖はしたのか?』と問う。
もちろん答えは『NO』である。
その場合は遺体解剖がどうしても必要だと検死医は言う。
果たして、人は予告通りに死ぬことがあるのか。

闇の中で捜査は続くが一向に埒が明かぬ。
疲れた一行はとある村で夕食をとる。
村長の娘は美しい。
が、彼女もこの村で朽ちて死んでいくのであろう。

『君は今まであった医者の中でも本当に頭がいい』と検事は言う。
その友人の妻の死は自殺ではないのかという検死医の話を検事は熱心に聞く。
何の不信もないようなことでも、事実は確かめないと分からない。

自白を再度迫る警察官だが、埋めた場所の目新しい事実は出てこない。
夜明け近く、ようやく死体は見つかる。
後ろ手に縛られ無惨な状態だ。

町に帰った一行は、いつもの生活に戻る。
警察官は子どもの薬を貰い、検事や医師は死体を検死するのを待つ。

検事は検死医に語る。
『その友人は昔一度だけ浮気と思われても仕方がないようなことを妻に知られたことがある。
しかし、妻は友人の話を信じて許したのだと』言う。
『本当に彼女は許したのでしょうか?』
と問う検死医に検事の答えはない。

町に帰った医師は、町人から犯人は当日別の所に居た事を聞く。

検死が始まり、遺体が解剖される。
自供では生き埋めと聞いていたが、何故か肺に水があり溺死のような状態だ。
しかし検死医は、遺体に異常なしと報告する。

権威者と犯罪者とは、強者と弱者である。

もしかして、人の罪をかぶって殺人者になったとしても、その罪から免れない。
トルコの、一見何の変哲のないような風景が画面を覆う。
限りなく美しい。
そしてただ闇の中を風の音が流れるごとく聞こえる。

検事の語った友人の妻は、一人の女の子を産んだ後に予告通りに死ぬ。
恨みかそれとも自分の死を悟ったものなのか?
殺人事件の謎もこの女性の死も何も答えはない。
そして、また普通の生活が始まる。

(J)

「昔々、アナトリアで」