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バーバラ・N・ホロウィッツ/キャスリン・バウアーズ 著
土屋晶子 訳

バーバラ・N・ホロウィッツ Barbara N.Horowits,M.D.
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医療センターの心臓専門医、医学部の心臓病学教授。
ロサンゼルス動物園の心臓病コンサルタント。
その著作は、多くの科学・医学の出版物に掲載されている。

キャスリン・バウアーズ Kathryn Bowers
ジャーナリスト、ライター。UCLAの医療叙述コースの講師。
アトランティック誌の編集員、CNNインターナショナルのプロディーサーなどを経て、
健康・生物学・進化について執筆活動を行う。

訳者 土屋晶子(つちや あきこ)
翻訳家。訳書は『動物たちの喜びの王国』『奇妙でセクシーな海の生きものたち』(インターシフト)『フューチャー・イズ・ワイルド』
『新恐竜:進化し続けた恐竜たちの世界』(ダイヤモンド社)、
『世界の動物分布図』(シルバーバック)など。

 

2015年、Eテレ「スーパープレゼンテーション」で放送され、

プレゼンテーターとしてバーバラ・N・ホロウィッツが語った『汎動物学(ズービキティ)』。

20世紀以前には人間と動物の病気を人間の医者が診ていたという。

動物と人間の病気を以前のように似たものとして、医学や医療に再度取り入れようとする試みが、

『汎動物学(ズービキティ)』として書かれている本である。

動物の病気と人間の病気はほとんど同じだという。

心臓病・がん・肥満や、恐怖症、薬物依存や、

アルコール依存・摂食障害や自傷行為が動物にも見られるというのだ。

動物の研究を通じて解明されている治療法が人間にも有効ではないか、

人間の医療が解明していないさまざまな疾患を

獣医学で以前から方法論として答えを持つものもあるという。

人間の医者たちのあいだには、

〔わたしたちを動物と同等のものと考える〕ことに抵抗がある人も多いが、

生物学全般や医学自体の基盤は私たちが動物であるという事実抜きでは成り立たない。

遺伝子コードのほとんどを他の動物と共有している私たち人間は、

獣医学からもっと学べるものがあるのではないかと問いかける。

1999年アメリカに西ナイル熱が流行した。

外来種や野生の鳥が何千羽も、また相当な数のウマ達もこのウィルスにやられて、

記録もされずにひっそりと死んでいる。

この異変を知ったブロンクス動物園の病理学部門の長で獣医師のトレイシー・マクナマラは鋭い恐怖を覚え、

動物園に勤める者の責務として、ニューヨーク市の野生生物保護協会に電話した。

その後、

脳炎と診断された人のうち7名がなくなり、脳炎と診断されたケースは62件に達した。

 

「セントルイス脳炎」を発生したといわれる人がでたと発表されるが、

その段階でマクナマラ医師は米国疾病予防管理センターに電話をする。

セントルイス脳炎ではないという確信のもとの電話であったが、

米国疾病予防管理センターは、その情報を無視することになる。

獣医学と医学のあいだに横たわる深い溝を痛烈に感じながらも、

感染した鳥の組織標本を米国農務省の研究室に送り、

その後米国疾病予防管理センターへと再度情報が伝わる。

センターでは西半球では今まで例のなかった蚊を媒介とする病原菌である西ナイルウィルスだと判断し

自らの判断ミスを認めた。

最初から獣医の話に耳を傾けていればどれだけの命が助かったかはわからない。

豚インフルエンザや鳥インフルエンザ、狂牛病やエボラ熱、病原性大腸炎など、

気候の変動もともない、今までは経験したことのないような疾病が動物や人間を襲う。

共有できる情報を共有し、より的確でスピーディーな対応が望まれるだろう。

『汎動物学(ズービキティ)』は、人間と動物の病気を一緒にみることをしようとする試みでもある。

動物と共に、より豊かに暮らせるようにと願う。

(J)

 

 

 

 

 

 

「人間と動物の病気を一緒にみる」 医療を変える汎動物学の発想