長嶋 有 ながしま ゆう
小説家。
1972年埼玉県生まれ。
北海道育ち。
2001年『サイドカーに犬』で第92回文學会新人賞受賞。
同年、『猛スピードで母は』で第126回芥川賞受賞。
著書に『タンノイのエジンバラ』『パラレル』『夕子ちゃんの近道』など。
コラムニスト・ブルボン小林として活躍中。

立川に住む父と、夜の七時に待ち合わせた。
時間通りに、父のワゴン車がやってきて、二人でコンビニで買い物をする。
車の助手席に乗り込むと荷台にいた犬が立ち上がり啼く。
純血種のハスキーでミロという名前がついている。

父の恒例の「一人避暑」にミロもくっついて、二人と一匹で、北軽井沢の山荘へと向かう。
小さい頃は毎年行っていた山荘だが、5年ぶりになる。
東京に残る妻には、他に好きな男がいる。
危ういのは父親の三度目の結婚も同じらしい。
それに、小説家志望の僕は、なかなか思うように筆が進まない。

北軽井沢の山荘と言えば聞こえはいいが、黴臭い布団で眠り、食事は自炊だ。
風呂は、手作りの五右衛門風呂で、快適といえば快適だ・・・。
ゆるやかに日は進み、夜は闇のように真っ黒だ。
東京では見ることのできない真っ黒な夜に、星は見えない。

毎年、暑い都会を抜け出して、山荘で夏を過ごす父に同行した小説家志望の『僕』。
祖母が、もったいないと言いながら、人から貰った衣類やら何やら貯め込んでいる。
その中から、父と二人でジャージを穿く。
アンチスローな夏の終わりに過ごす日々を、行きかう『思い』を描き出す。
小さな生き物との共存は、今は忘れかけている都会の生活では経験できない情緒をかもし出す。

翌年の山荘へは、「三人のジャージ」となる。
妻への思い、父への思い、さりげない言葉は、心の緊張を解きほぐしてくれるようだ。
そんな雰囲気たっぷりの物語だ。

(J)

「ジャージの二人」