森 絵都 Mori Eto
1968年東京都生まれ。
早稲田大学卒。
91年『リズム』で講談社児童文学新人賞を受賞しデビュー。
同作品で椋鳩十児童文芸新人賞、産経児童出版文化賞ニッポン放送賞、『アーモンド入りチョコレートのワルツ』で路傍の石文学賞、『つきのふね』で野間児童文学賞、『カラフル』で産経児童書出版文化賞、『DIVE!!』で小学館児童出版文化賞を受賞。
2006年『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞を受賞。
その他の著書に『永遠の出口』『いつかパラソルの下で』など多数。
中学2年生の鳥井さくらは、最近小さい頃からの親友の梨理とケンカをしたわけでもないのに話もしない。
梨理とは本当に仲が良かった。
ノストルダムスの予言では1999年で世界は終わる。
『私たちは、高校生になる西暦2000年を迎えることができるか。』と話していた。
ばかにされないでそんなことを言えるのは梨理だけだった。
そんな2人の後ろをつけ回しているのは、梨理に惚れ込んでいる勝田君だ。
その勝田君に針路調査で担任に呼び出されて職員室にいるとき、出会ってしまった。
案の定、待ち伏せされて梨理とのことを聞かれたが、さくらは何も言わない。
『だって親友を裏切ったのは私なんだもの、許されないよ。』と一人悩む。
梨理とさくらは、『彼のため』という万引きグループの静香から話を持ちかけられて、万引きを繰り返していた。
万引きはもはや暇つぶしや遊びではなく、仕事になっていた。
だが、さくらには一線があって、そこを超えることはできない。
ある日、さくらと梨理の二人で、万引きグループを抜けたいと静香に話を持ちかけたとき、『じゃあ最後にフィルム500本。』と言われた。
それで抜けられるならと、コンビニやスーパーをはしごした。
半分の250本のとき、タツミマートを見つけ、万引きに好都合の店構えと思い、フィルムを盗んでいたとき、店長に捕まった。
万引きのグループのルールで、一人が見つかったとき、ほかにグループのメンバーが居ても、知らないふりをするはずだった。
さくらは、そのルールを守らなかった。
側に居た梨理に助けてと声をかけたのだ。
梨理は逃げた。
タツミマートの店長から散々絞られていたとき、さくらを逃してくれたのが智さんだった。
それ以来智さんはさくらの唯一の心の拠り所になっていった。
学校帰りに智さんのアパートに立ち寄る。
彼は机に向かって空飛ぶ円盤の設計図を書く。
ミルクコーヒーがおいしい。
智さんと一緒のときだけ、さくらの心は落ち着きを取り戻した。
近所を騒がせる放火事件と親友の梨理のグループの売春疑惑。
そして、唯一心の拠り所だった智さんの心が病み始める。
どう生きていこうか、生きていけるんだろうか。
迷いと不安と恐れを抱く思春期の心模様を、闇と共に描く。
一筋の光を求めて、勝田君とさくらは、必至の思いで道を探す。
『つきのふね』で未来は救われると勝田君のついた嘘は、それぞれの思いを微妙に照り返す。
そして、思いがけない出来事へ、『つきのふね』へ、と導かれる。
(J)