百田 尚樹
1956年、大阪生まれ。
放送作家として「探偵!ナイトスクープ」などの番組で活躍後、2006年に『永遠の0(ゼロ)』で作家デビュー。
同書は2009年に文庫化され、大ベストセラーとなる。
高校ボクシングをテーマにした青春小説『ボックス』は、2010年に映画化された。
『幸福な生活』『錨を上げよ』『影法師』などがある。

失恋でもない、破局でもない、死別でもない、かって誰も経験したことのない、永遠の「別れ」とは。

梅田聡子は、家庭教師センターから成城にある岩本家を訪れる。
岩本家は驚くほど大きかった。
門から邸まで十数メートルあり、道には石が敷き詰められてある。
古い洋館建ての邸に入って岩本夫人に会う。
三十代後半の綺麗な顔立ちの岩本夫人と面接の後、小学校五年生の息子の修一の数学の家庭教師を始める。

岩本家には、うっとりするほどの美しい庭園があった。

結婚してから、仕事を体調不良で二年ほどで辞め、不妊治療を続けている聡子は、退屈が解消できなかった。
夫の康弘には、どうやら浮気相手がいるようである。
不妊治療はお金がかかる。
そのこともあり夫には何も言わず、何となく鬱々とした生活が続いていた。

家庭教師初日に玄関ホールの見下ろせる廊下で、聡子は三〇歳ぐらいの青年とばったり出くわした。
思わぬ出会いで少し驚いた。
小さく会釈したが目を逸らすように青年は俯いた。

途中の休憩時間に、庭に出た聡子は、背後から「木に触れるな!」と背後から男に言われる。
そして植木鉢を投げつけた男は、走り去った。
修一にその人のことを聞くが、何とも要領の得ない答えが返ってきた。

週四回の家庭教師は、生活にリズムが出来てきた。
康弘のこともつい考えてしまい気が滅入ったりもしたが、気持ちが楽になっていった。

そんなある日、休憩時間に庭に出た聡子は、村田卓也と名乗る人物に出会う。

そして拓也から、修一の父親の洋一郎の弟である岩本広志は、「解離性同一性障害」つまり多重人格者である事を告げられる。
村田もオリジナル以外の人格者でる交代人格の一人であるという。
信じられない思いの中、聡子はからかわれているか、演技か、または、妄想か事実なのかと考える。

その後、広志の交代人格と名乗る宮本純也や、乱暴者のタケシや花を育てるヒロコなど元は12人いた交代人格が5年にわたる治療で、今は5人になったことを知る。
拓也は知性的でオリジナルの広志の理想像として生まれたという。

次々に現れる人格を信じがたく思いながらも広志が小さいことから父親や義理の兄である洋一郎から受けた、様々な虐待の話を聞く。
苦痛を逃れるために出来た人格。
統合され、再び引きこもりから社会に出て行くために、広志本人や交代人格の拓也たちが治療を受けながら生活をしていた。

様々な事を拓也から聞くうちに、いつしか聡子は拓也に興味や関心を抱く。
そして、拓也に会うことを期待し、何時しか彼を愛するようになる。

でも、統合されて元の拓也になったら、彼とは二度と会うことは出来なくなる。
苦しい思いの中、聡子は拓也と会うことを望むが、やがて彼は広志と一人の人になってしまう。

虐待の結果として生まれた様々な人たち。
それぞれがそれぞれの役割を担う。
その中には、非常に独特で特別な才能を持つ人格がいることが多いと聞く。
この本にも書かれているが、治療は困難を極める。
なぜなら、交代人格が統合を望まない場合もあるからである。

一人一人が、ハッキリと一人の人格として、一人の体を時間単位で共有する。
虐待の凄まじさを思う。

解離 (dissociation)
通常われわれの体験は、自己意識、感情、身体感覚、知覚などが統合されており、過去、現在、未来が連続したものと感じられる。
しかし、このような自己の統合性や連続性が失われることがあり、これが解離現象である。
解離現象には、我を忘れて熱中するという健康なものから、解離性健忘(Dissociative Amnesia)、解離性とん走(Dissociative Fugue)、解離性同一性障害(Dissociative identity Disorder)といった解離性障害(Dissociative Disorder)までと幅広い体験が含まれている。
このような解離現象が生じるには、心的外傷体験、幼児期の重要な他者の喪失、家庭からの無視や拒否、社会的孤立などといった外的要因、空想への陥りやすさや被暗示性の高さといった生来的な素因、身体的な病気や長期間にわたるストレスを受け続けることなどから自己と統合する心的エネルギーが低下するといったことが考えられる。
「カウンセリング辞典」より 抜粋

(J)

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