森沢 明夫 Morisawa Akio
1969年、千葉県生まれ。
早稲田大学人間科学卒業。
2011年、『津軽百年食堂』が映画化。
『あなたへ』は、高倉健主演映画の小説版としてベストセラーに。
その他、『虹の岬の喫茶店』『ライアの祈り』『あおぞらビール』などがある。
駅前の寂れた通りの地下にある「スナックひばり」は、身長2メートルを超えるマッチョなオカマ・通称ゴンママのお店である。
其処に集まるのは、一癖も二癖もある「変わり者」ばかり。
エロジジイ社長、金髪モヒカンの歯医者、シャイで生意気,でも顔はアイドルみたいに素敵な高校生、謎のセクシー美女、うだつの上がらない中年サラリーマンなどである。
筋トレを目指して、ジムで汗を流しながら、その店「スナックひばり」で心の傷も流していく。
そんな人たちのそれぞれの思いや苦しみを書いた物語である。
末次 庄三郎は、「末次プランニング」という社員四名の零細企業の社長である。
35歳で会社を興し、バブル期絶頂には社員数30名ほどいた。
景気は冷え込み、受注した仕事はあっと言う間にボーナスも出せないほど落ち込んだ。
有能な社員から会社を辞めていき、経営を合理化してささやかな経営をしている。
四人の社員は、お局みたいなまもなく五〇歳の成ろうという相原さん。
やたらと無口でおとなしい小見山さん。
そして、二〇歳代前半の男女二人だった。
ゆとり時代のこの二人 森田と三田村には、常々、末次は頭を悩ましていた。
何を考えているのかさっぱりわからない。
返事はいつも「は~い」である。
何故、「はい」と言えないのか…。
しかし、そんな二人に、老人ホームのパンフレットの企画を頼むことになる。
末次の心は、不安と心配でいっぱいである。
そんな折、「スナックひばり」に飲みに行った時に、ゴンママから、「ゆとり世代っていうだけあって、 彼らにはゆとりを持たせてやると、 案外いいんじゃない。」
とアドバイスを貰う。
物事、急いでばかりだと結局伸びなくなる。
筋トレも同じだという。
そのアドバイスを聞き、末次はとにかく二人を信用してみようと決心する。
しかし、その心配は的中。
二人の担当した老人ホームから担当を変えてほしいとの連絡が入る。
森田と三田村は、ホームの入居者への対応があまりにひどいと、老人ホームの担当者にクレームを入れたという。
どうしても謝ろうとしない二人、『自分の本当のおばあちゃんだったらこんなところには入れない。』と頑張る。
そんな話を聞きながら、末次は決心する。
二人を信じてみようと…。
読んでいてほっこりする話である。
人と人との触れ合いの原点のようなものがそこにはあるような気がする。
変人ばかりの「スナックひばり」で今日もそんな人たちがたむろする。
(J)