中島 たい子 なかじま・たいこ
1969年東京うまれ。
多摩美術大学卒業。
放送作家を経て脚本家に。
2004年『漢方小説』ですばる賞を受賞。
著書に『そろそろくる』『建てて、いい?』『この人と結婚するかも』がある。
耳慣れているサイレンだけれど、自分のために鳴っているのを聞くのは初めてだった。
遠くでポッと点るようにそれは鳴り始め、
一直線にやってくると高音のピークで止まった。
実家から間違って持ってきてしまったオヤジのパジャマを着て、ユニクロのパンツがはみでているお尻を玄関にむけて倒れているという、何か一つでもどうにかしたい状況だったけれど、それどころじゃなかった。
アパートの外階段を上る複数の足音がして、寝ぐせの髪がおっ立っている大家さんと一緒に、水色の上っ張りを着た三人の救急隊員が入ってきた。
「どうしましたか、ご自分で話せますか?」
本文 抜粋
救急車に乗ったことありますか?
何とも言えない気分ですよね。
気恥ずかしいような、照れるような、そんな気分。
でもそんな気分って、まだまだ余裕があるっていることなのでしょうか?
そして、同時にどうすることも出来ない気恥ずかしさを抱えながら・・・ね。
三一歳の主人公の女性は、川波みのり。
最近身体の調子が悪かったけど、ここまで悪くなってたとは…。
彼女は救急車で恥ずかしい思いをしながらもどうにか気持ちを立て直し、その後も抱える不調をどうにかしようと、4軒病院にかかる。
病名もなかなかつかない。
でも調子は悪い。
そんな彼女は小さい頃にかかった漢方医のことを思いだす。
そして5人目の医者として漢方医の所に通う出す。
そこで出会ったのが若くてハンサムな漢方医!!
周りの友だちは、「胡散臭い」とか「大丈夫?」とかいうけれど、ただひたすらみのりは通います。
そんな周りの不信にかかわらず、みのりの体の状態は少しずつだけど、良くなっていきます。
でも少し気を抜くとぶり返し。
ハンサムな漢方医に、注意されながらみのりは漢方を飲み続けます。
東洋医学に興味をもったみのりは、本屋で東洋医学の本を買い、また、薬草園に行き、自分の飲んでいる様々な薬草を確かめながら、
根気よく続けます。
感情や体の調子が、五臓六腑との関係で説明されている東洋医学は、西洋医学に馴染んでいる私たちには、耳慣れないけど、また不思議さと興味をもたせます。
ちょっとページをさかのぼり、いったい何が語られているセクションなのかを見ると、『病因』の項だった。
病気の原因となる要素や、それが身体をおかすことを『邪気』と言うのに対して、『正気』はそれに負けない力、身体の防御機能が正常に働いていることを指す。
相対的に邪気が正気を上まわったときに病気になるとある。
『邪気』は、いくつかに分類されている。
気候の変化やウィルスなど外界からくる病因。
体内の調節機能の失調などによる内因な病因。
そして生活習慣などによる社会的病因、等々。
『七情』もその中の病因の一つとして取り上げられている。
この七つの情緒反応が過度になったり持続すると、五臓を傷めて病気になるとある。
特定の感情と特定の内臓を直結させて考えるというのはいささか独創的過ぎる気もする。
が、その例を読むと、『怒ると肝が傷ついて血が上昇し、眩暈、頭痛などをもたらす』
とか、『思いすぎると脾が傷ついて消化機能が弱り、食欲減退、胃もたれが生じる』などと、言われてみれば心あたりあるし、普段からなんとなくわかっていたようなことだ。
本文 抜粋
最後にみのりの体調は戻るんですが、肝心の漢方医ともさよならになります。
当たり前か!!!
(J)