山田 詠美
1959(昭和34)年、 東京生れ。
明治大学文学部中退。
’85年『ベッドタイムアイズ』で文藝賞受賞。
同作品は芥川賞候補にもなり、衝撃的デビューを飾る。
’87年には『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞受賞。
’89年『風葬の教室』で平林たい子文学賞、’91年『トラッシュ』女流文学賞、’96年『アニマル・ロジック』で泉鏡花賞受賞。

最初にゆりと関係を持ち、人々の視線を浴びながらデートをした時、ロバートは何故、彼が周囲から、「ラッキー・ボーイ」と呼ばれるかが、よく解らなかった。
ゆりも何も語らなかった。
ただの変な女の子、そう思いながら、ロバートは、ゆりを可愛がろうとしていた。
彼女は確かに、思い描いていた日本の女性とは、まるで違っていたが、ロバートは気にしなかった。
だらしのない生活態度は、徐々に更生させて行ければいいのだと思っていた。
けれども、やはり、ゆりの生活は、目に余るところがあった。
たとえば、一日じゅう、何もしないで、ベッドに横になり、毛布にぬくぬくとくるまって本を読んでいるとか、朝風呂につかった後で、ワインを飲んで再び寝てしまうとか。
そうかと思うと、夜通し、ショートパンツにスニーカーで街を散歩したり、とか。
ロバートは、肩をすくめて、やれ、やれ、と呟いたりした。
本文 抜粋

実は、この主人公の一人のゆりさんは、大変なお金持ち。
両親の残した財産で生活している。
兄妹もいないゆりは、天涯孤独。
そこに登場したのが、恋人のロバートである。
お金はあるのにガスや電気、水道が止まる。
要するに、ゆりはそんなものには興味がない。

「ロバちゃん」「ゆーりちゃん」と呼び合う二人。
ふわふわと柔らかいうさぎのように、いつも二人はくっついている。
そのうち、二人は一つになってしまいそうなくらいに、そう息もつけないくらいに恋しく愛おしい気持ちになっていく。

生活のなかで起きる様々な出来事も、二人の世界に溶け込んでいく。
その中で、二人はお互いを掛け替えのない存在だと思うようになっていく。

そんな二人を、友人達は批判しながらも羨ましそうにも眺める。
「ゆーりちゃん、ロバちゃん。
ふたりはうさぎ!」

おやおや、何とも不思議な世界。
でも、思わず引き込まれて読んでいく。

思いやりと愛情のロバちゃんエネルギーで、キュートでわがまま娘のゆりちゃんは、人を愛するせつなさや、心の苦しさで、オロオロしたりドタバタする。

また、ゆりちゃんのエネルギーで、ロバちゃんは、人の心の複雑さを知る。
何でもいいけど何とかしてよね。
この二人!

ロバートの昔の恋人の出現や、ゆりを、姉御と慕う高校生の少年に、ロバートの友だちのアレックスが殴られたり、すはま(お菓子)を養子にしたり、とにかくいろいろな事が起きる中、どれでも、二人は着実に愛情を育み、そして、めでたくゴールインする。

ロバートは、なんだか、やるせない気持ちになった。
結婚というのは、生まれた場所も育った環境も異なった二人が築き上げて行く関係であるとは言え、彼は、その事実を痛い程、思い知らされていた。
彼の家では、夕方になると、いつも母親が皆に、チキンはテリヤキが良いか、ローストが良いか、あるいは、フライにするのが良いのかを訊ねたものだ。
そして、多数決で料理法が決まる。
その時、弟たちの好みが優先されれば、次回は、ロバートの好きなテリヤキが食卓にのぼる。
サラダだってそうだ。
ツナが良いか、ターキーが良いか、ベーコンビッツを振りかけるか、はたまた野菜だけにするか。
そこには、いつも、愛情に包まれた選択肢が待ちかまえていた。
母親は、ただ、息子たちの好みを優先させる。
ロバートは、ゆりに対して、母親と同じことを実行しようと思っただけなのだ。
ゆりの好みなど彼は熟知している。
溶かしバターをかけた蟹の足よりは、ポン酢で食す鍋物のほうが彼女はお気に入りなのだ。
本文 抜粋

一度、通読されたし!
面白いと思うか、気持ち悪いと思うか、はたまたそれ以外の感想もあるかな・・・。

(J)

「ラビット病」 Rabbit Syndrome